2019 Fiscal Year Annual Research Report
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17H01870
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
朴 昊澤 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(北極環境変動総合研究センター), グループリーダー代理 (10647663)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大島 和裕 公益財団法人環境科学技術研究所, 環境影響研究部, 任期付研究員 (40400006)
一柳 錦平 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 准教授 (50371737)
吉川 泰弘 北見工業大学, 工学部, 准教授 (50414149)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 海氷減少 / 水同位体 / 同位体トレーサーモデル / 同位体循環モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
北極の陸域と海洋で構築した同位体観測ネットワークにおいて降水イベント毎に降水サンプルの収集、そして海洋研究船「みらい」の北極航海に研究代表者が参加して大気中の水蒸気の同位体比の連続観測や降水サンプリングを行った。観測データの解析の結果、陸域と海洋において降水の同位体比が非常に類似しており、風向・風速の変動に同位体比が敏感に変化したことが分かった。また、再解析データの解析において北極海から陸域に輸送する水蒸気量が増加していたことが見られた。同位体循環モデルを用いて海氷の状態に変化を与えたモデル実験を行い、海氷減少の結果、沿岸の陸域において降水、特に冬季の積雪が増加する観測結果と同様のことを確認した。今までの観測データはArctic Data archive System (ADS)にアップロードして公開した。 海氷減少と気温上昇による降水の増加や永久凍土の衰退による地下氷の融解水の増加が水循環に及ぼす影響を定量化するために、水の起源とその循環プロセスが追跡できる同位体トレーサーモデルを開発した。長期の観測データが蓄積しているロシアのヤクーツクの観測サイトにそのモデルを適用し、水循環における起源水を融雪水、夏の降雨量及び地下氷の融解水に成分分離し、それらが蒸発散及び流出を通して陸域システムから消失するまでの循環プロセスを可視化した。また、蒸発散量、流出量及び土壌水分に対する起源水の寄与率を定量的に評価した。その結果、水循環において夏の降雨量が主な供給源であり、融雪水は春に限ってその影響が顕著であったこと、そして地下氷の融解水は土壌水分の湿潤と流出に主に寄与していたことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
降水の同位体観測ネットワークを活用した降水の観測データを蓄積していく中、北極海航海に参加して水蒸気の同位体観測を1ヶ月以上連続に実施したことは今まで例のない成果の一つである。観測データの解析の結果、海氷減少に伴い陸域への水蒸気輸送が増加して水循環が強まっていることが明らかになった。同位体循環モデルを用いた数値実験において観測研究と同様の結果が得られ、特に温暖化の影響が著しい北極沿岸のツンドラ地域、そして海氷後退が最大になる秋に積雪量の増加を通して永久凍土の温暖化と陸域の水循環に対する海氷減少の影響が顕著になったことを確認した。 陸域の水循環における水の成分を融雪水、夏の降雨、及び凍土融解水に分離し、それぞれの循環プロセスの追跡及び水収支に対する影響を評価する同位体トレーサーモデルを開発し、観測データとの比較を行い、諸プロセスを精度良く計算するモデルの有効性を確認した。同位体循環モデルと結合して、北極海の起源水が陸域の水循環システムに流入してどのように挙動するのか、そして水循環に対する海氷減少の影響を評価するツールが構築できたことは、本研究の目標達成にむけての大きな進歩である。特に、水の成分分離ができなかった従来の同位体モデルの弱点を同位体トレーサーモデルにより改善したことは大きな成果である。このような状況を踏まえた時、本研究は順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
海氷減少の結果、水蒸気輸送を通して陸域の水循環に影響していたことが観測結果とモデル実験により明らかになった。しかし、地表面及び気候の違いによって水循環に対する海氷減少の影響が地域的に異なる。そのため、環北極域において水循環に対する海氷減少の影響が著しい地域を抽出し、その影響のメカニズムを明らかにする必要がある。温暖化の進行によって海氷減少が顕著になる予測結果を踏まえ、同位体循環モデルの将来予測の結果を同位体トレーサーモデルの入力データにして、今世紀末において陸域水循環に対する海氷減少の影響を評価すると共に、起源水の成分分離を行い、それぞれの変化を定量化する予定である。 今まで通りに同位体観測ネットワークにおける降水のサンプリング及び水蒸気の同位体観測を継続し、収集した全データをArctic Data archive System (ADS)にアップロードして公開する。 来年度は本研究の最終年度であるため、今までの研究結果をまとめると共に、主な結果である同位体トレーサーモデルの実験結果、及び同位体循環モデルの数値実験の結果をまとめて国際誌に公表していく予定である。
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