2017 Fiscal Year Annual Research Report
極低濃度オゾン曝露における不飽和脂質とヒトリポ蛋白の酸化及び抑制に関する研究
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17H01879
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
叶 深 東北大学, 理学研究科, 教授 (40250419)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
惠 淑萍 北海道大学, 保健科学研究院, 教授 (90337030)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 不飽和脂質分子 / 極低濃度オゾン / 酸化反応機構 / 細胞膜 / 構造評価 / 活性酸素 / ヒトリポ蛋白 / 酸化抑制 |
Outline of Annual Research Achievements |
脂質分子は細胞のエネルギー貯蔵や情報伝達に重要な役割を果たすほか,細胞膜の構成要素でもある.中でも不飽和脂質分子は組織の流動性や物質交換などの機能性発現に欠かせないが,酸化されやすい問題がある.一方,極めて高い酸化力をもつオゾン分子は地表において極低濃度存在しているが,不飽和脂質分子への影響については殆ど検討されていない.本研究では,環境レベルの極低濃度のオゾン曝露による不飽和脂質分子やヒトリポ蛋白の酸化及び機能性発現への影響について,種々の先進的計測技術をもって分子レベルで調べ,その抑制法について検討する. 研究開始の初年度において,研究代表者(叶)が東北大学への異動もあり,研究装置の移動・立上げ及びトレーニングに多くの時間と精力を費やした.初年度はコリンを末端官能基とした不飽和脂質分子POPCについて研究した. まず,極低濃度オゾンに曝露するPOPC不飽和脂質単分子膜の表面圧挙動を調べた.表面圧30mN/mの条件下で表面積の変化を調べたところ,POPCの表面積が一旦上昇し,ピークに達してから,減少に転じた.元の表面積に戻るには約数時間が必要とした遅い過程であった.この反応過程における生成物を同定するため,所定時間曝露後,反応の生成物を抽出し,冷凍乾燥を行い,Orbitrap LC/MSの定量分析に備えた.さらに,不飽和脂質分子のオゾン酸化の生成物を分析するため,高分解能Orbitrap LC/MS測定条件を最適化し,測定手順がほぼ確立された.現時点では,極低濃度のオゾン曝露によりPOPC単分子膜はC=C部位が酸化・切断されたことを確認した.その中,CHO種およびCOOH種の生成物が近い相対収率で得られたと同時に,POZ及びSOZの生成物も検出された.現在では上記のデータを定量解析しながら,測定条件の改良と再現性の向上を進めると同時に,学術論文作成にも着手した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)極低濃度オゾンに曝露するPOPC不飽和脂質単分子膜の表面圧挙動: 極低濃度オゾンに曝露するPOPC不飽和脂質分子の単分子膜の挙動について圧力30mN/mの条件下で表面積の変化を調べた.その際,POPCの表面積が一旦上昇し,ピークに達してから,減少に転じた.元の表面積に戻るには約数時間が必要とした.現在オゾン濃度のバラつきはあるもの,全体として再現性は得られていた.極低濃度オゾンに所定時間曝露後,POPC単分子膜の生成物を抽出し,冷凍乾燥を行い,Orbitrap LC/MSの分析測定に備えた.
(2)脂質単分子膜の構造評価:表面圧等温線の評価のほかに,SFG分光法を用い単分子膜の構造について分子レベルで評価するために,装置立ち上げと操作トレーニングを順調に進めている.
(3)Orbitrap LC/MS測定による不飽和脂質分子膜の反応生成物・中間体の同定:北大の高分解能Orbitrap LC/MS測定装置により,東北大学側から提供したオゾン酸化生成物の同定を行う.測定条件の最適化を行い,測定手順がひぼ確立された.現時点では,オゾン曝露により,POPCは明らかに酸化されたことを確認した.POPCのC=C部位が酸化・切断され,CHO種およびCOOH種が近い相対収率で観測された.また,POZおよびSOZ化合物の検出も検出された.現在では上記のデータを定量解析しながら,測定条件の改良と再現性の向上を進めると同時に,学術論文作成にも着手した.
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Strategy for Future Research Activity |
(1)様々な官能基をもつ脂質単分子膜の動的挙動の評価:POPCの研究知見を踏まえて,セリンやグリセロール,エチルアミンなどの極性官能基をもつリン脂質分子について詳細に調べ,分子間相互作用や末端官能基電荷,親水疎水特性,水素相互作用などの側面から末端官能基の依存性を明らかにする.極低濃度のオゾン雰囲気中で,膜表面圧一定または膜面積一定の条件下で,膜表面積または膜表面圧の時間変化を測定し,脂質分子膜の状態変化を調べる.これと同時に,SFG分光法により不飽和脂質膜の表面構造について評価する.単分子膜の積層膜圧を変化させることで種々のパッキング密度でリン脂質分子膜を構築し,極低濃度のオゾン雰囲気における構造変化と生成物,膜のパッキング密度依存性について評価する.
(2)混合脂質単分子膜の構造変化:不飽和と飽和脂質分子の混合膜について調べる.表面圧等温線とAFM測定により,混合膜の状態や相分離状態について評価する.極低濃度のオゾン雰囲気において,界面分子構造や生成物についてSFG分光法により調べる.リン脂質分子の混合によりオゾンに対する反応活性や反応機構の変化を調べる.
(3)Orbitrap LC/MS測定による不飽和脂質分子膜の反応生成物・中間体の同定:POPC単分子膜の酸化分解の生成物の測定経験を活かしながら,コリン以外の官能基を含む不飽和脂質分子の測定にも着手する.北大と東北大の共同研究の分担作業により,不飽和極低濃度のオゾンに所定時間に曝露された後,水表面および水相内部の反応中間体・反応生成物及び反応物を抽出し,冷凍乾燥を行い,高分解能Orbitrap LC/MS測定により,各中間体や生成物の同定を行う.不飽和結合や末端官能基や膜パッキング状態の影響についても検討する.さらに,ヒトリポ蛋白の評価も進めていく予定.
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