2019 Fiscal Year Annual Research Report
湖沼底層部の低酸素化が誘導するメタロゲニウム粒子生成の分子機構と駆動システム解明
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17H01898
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Research Institution | Akita Prefectural University |
Principal Investigator |
宮田 直幸 秋田県立大学, 生物資源科学部, 教授 (20285191)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古田 世子 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター, 環境監視部門, 主任専門員 (00508476)
鈴木 徹 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (20235972)
岡野 邦宏 秋田県立大学, 生物資源科学部, 助教 (30455927)
池谷 仁里 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 客員研究員(研究員) (30531579)
藤林 恵 九州大学, 工学研究院, 助教 (70552397)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | マンガン酸化細菌 / メタロゲニウム粒子 / 湖沼底層部 / マンガン循環 / 懸濁態多糖 |
Outline of Annual Research Achievements |
マンガン酸化細菌BIWAKO-01をメタロゲニウム粒子生成条件(多糖添加、微好気)で培養し、メタロゲニウム粒子生成時に発現する代謝系をRNA seq解析により明らかにしようとした。培養時間を変えた培養物からmRNAを回収して逆転写産物を次世代シーケンサーで分析し、シーケンスデータを得ている。現在、得られたデータを解析中である。また、BIWAKO-01が形成するメタロゲニウム粒子構造に関して、炭素安定同位体(13C)で標識したアルギニンと非標識の多糖(寒天)を添加して培養し、メタロゲニウムフィラメント構造中の炭素を安定同位体質量分析装置で分析した。少なくともフィラメント構造からは13Cが検出されず、フィラメント構造中の炭素は添加した多糖を由来とする外因性であると結論付けた。 琵琶湖北湖(今津沖中央地点)での現地調査では、毎月1回、水深10~20 mごとの植物プランクトン発生量やクロロフィルa濃度、多糖濃度(全糖及び懸濁態)をモニタリングした。2019年度は4、5、9、12、3月に底層部(水深85 m地点)で10~28 μg/Lの濃度で検出された。全糖濃度のおよそ1/10~1/20と低濃度ではあるが、表層から底層部に供給されていることが示された。さらに、前年度に引き続いて、湖水中の多糖の解析を行い、植物プランクトンの遷移に伴うフコースやマンノースの量的変化をモニタリングした。これまでに蓄積してきた長期データ(2002~2018)を再解析し、底層部で発生したメタロゲニウム粒子数と表層で発生した植物プランクトンの体積(各々年平均値)には高い正の相関が認められた(p < 0.005)。植物プランクトンから供給された懸濁態多糖が湖底に沈降することで、湖底においてBIWAKO-01のようなマンガン酸化細菌のメタロゲニウム粒子生成が誘導されると推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
I. 細菌による粒子生成の分子機構 (a) ゲノム情報を用いた分子遺伝学的解析:BIWAKO-01のメタロゲニウム粒子形成に関与する遺伝子発現をトランスクリプトーム解析し、シーケンスデータを取得した。既に、本株のマンガン酸化酵素遺伝子等の遺伝情報基盤を整備しているので、今後はシーケンスデータを精査し、どのような環境応答によりメタロゲニウム粒子生成が起こるのか、それにはどのような代謝系が関与するのか、明らかにする予定である。(b) メタロゲニウム粒子構造体の形成過程解析:BIWAKO-01が生成するメタロゲニウム粒子のフィラメント構造に関して、フィラメントを構成する多糖が外因性であることを検証することができた。計画通り、順調に進んでいる。 II. 底層部における粒子生成の駆動システム (c) 現地調査と水質分析:BIWAKO-01近縁種、懸濁態多糖のモニタリング手法が確立でき、植物プランクトンや全糖濃度と併せて、鉛直分布とその季節変動が順調に調査できている。 (d) 多糖の組成・起源の解析:湖水の多糖を構成する単糖類の分析も順調に行えている。
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Strategy for Future Research Activity |
(a) ゲノム情報を用いた分子遺伝学的解析: BIWAKO-01株の培養系を用いたトランスクリプトーム解析の結果から、湖沼底層部で多糖の存在がBIWAKO-01株の代謝系にどのような影響を及ぼすのか、特にマンガン酸化活性の発現を中心として解析を行う。 (b) メタロゲニウム粒子構造体の形成過程解析: BIWAKO-01株が生成するメタロゲニウム粒子のフィラメント構造に関して、フィラメントを構成する多糖が外因性である(環境中の外部多糖を利用している)ことが示唆されたことから、トランスクリプトーム解析の結果と併せて、その生成機構について検討する。 (c) 現地調査と水質分析: 3年間にわたる琵琶湖北湖(今津沖中央地点)における植物プランクトン発生量、クロロフィルa濃度、多糖濃度(全糖、懸濁態)、メタロゲニウム粒子数鉛直分布とその季節変動の実態を提示する。さらにメタロゲニウム粒子生成を担うと推察されるマンガン酸化細菌BIWAKO-01類縁菌の定量PCR結果により、本細菌はどの時期にどの水深で増殖し、湖底での粒子生成に関与するのか提示する。 (d) 多糖の組成・起源の解析: 前年度に引き続いて、湖内で検出される多糖の組成を分析し、植物プランクトンの細胞外多糖が藻体とともに底層部まで沈降しているか、加水分解及びGC-MS法で分析して調査する。 総括: これまでの調査結果をとりまとめ、現在の琵琶湖北湖の植物プランクトンによる多糖生産の実態、メタロゲニウム粒子生成細菌の生態・機能について提示する。これらの結果を総括して、表層植物プランクトンによる多糖生産が湖底でのメタロゲニウム粒子を駆動するとの仮説の検証を行うとともに、底層部環境が現在、どのような質的環境にあるのか得られた調査結果をもとに考察する
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Research Products
(3 results)