2018 Fiscal Year Annual Research Report
シエナ派のフレスコ画におけるストゥッコ技法について
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17H02016
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
江藤 望 金沢大学, 学校教育系, 教授 (60345642)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大村 雅章 金沢大学, 学校教育系, 教授 (00324062)
菅原 裕文 金沢大学, 歴史言語文化学系, 准教授 (40537875)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | シエナ派 / ストゥッコ / フレスコ画 / ゴシック絵画 / 円光 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年3月に実施したリッポ・メンミのフレスコ画『マエスタ』(サン・ジミニャーノ、ポポロ宮)の現地調査で入手したストゥッコ技法の画像資料を入念に検証し、彼の師であるシモーネ・マルティーニの同主題のフレスコ画におけるストゥッコ技法と比較検証した。また、分担者大村は、フレスコ画の盛り上げ技法から派生したテンペラ画の盛り上げについて研究を展開した。具体的にはカルロ・クリベッリの蜜蝋を取材用とした盛り上げ技法を実証的に解明した。 研究発表として、9月に行われた大学美術教育学会で、シエナ派の円光におけるストゥッコ技法について発表した。内容はこれまで調査研究してきたフィレンツェ派の円光とシエナ派のものを比較し、シエナ派の円光技法における特異性を明らかにしたものである。同じく、研究分担者の大村も上記研究成果を大学美術教育学会で発表するとともに、同学会誌に研究論文を発表した。また、金沢大学国際文化資源学センターの研究誌「文化資源学研究」22号に「シエナ派のフレスコ画におけるストゥッコ技法」と題した、これまでの研究調査結果を報告した。なお、同誌は2018年度3月に実施した、西洋絵画技法研究の専門家によるシンポジウム『壁画技法研究会』の記録をメインに報告したものである。 本研究の第三者評価として、ビザンティン美術が専門のマケドニア共和国のオフリド・イコン美術館のミルチョ・ゲオルギエフスキ顧問学芸員に、貴重な研究の指導助言をいただくことができた。 2月にはサン・ジミニャーノの参事会教会に描かれた『新約聖書伝』に導入された円光ストゥッコを現地調査した。この調査では、漆喰が軟らかいうちに型押しして立体的な装飾を形成するこれまでのシエナ派の手法と部分的にまったく異なった手法の可能性を見いだすことができ、大きな成果を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の今年度の計画ではシモーネ・マルティーニの円光ストゥッコに取り入れられた装飾造形の分析を実施する予定であったが、彼の弟子であるリッポ・メンミの同技法との比較検証を優先したために、計画に遅れが生じている。その一方で、上記したサン・ジミニャーノの参事会教会に描かれたフレスコ画『新約聖書』に導入された一部の円光ストゥッコに、これまでシエナ派で確認された技法とまったく異なったものが採用された可能性につながる発見があった。このことは、本研究が当初予期していない方向へ研究が進展し、実証的に解明することで大きな研究成果として実を結ぶことが予想される。今後はこのサン・ジミニャーノの『新約聖書』に導入された円光盛り上げ技法の解明と並行して、当初の研究計画であるシモーネ・マルティーニのストゥッコ技法の復元をして行きたい。 また、当時の絵画技法は絵画に特化したものではなかった。楽器や家具の装飾などにも絵画と同じ技法が採用されていたのだ。この事実をもとに、研究分担者である大村が、家具に使用されていた蜜蝋を主材料とする盛り上げ技法が、カルロ・クリヴェッリのテンペラ画の盛り上げ技法に導入された可能性を説いた。この研究はフレスコ画の研究主題から少々道が外れたが、謎多きカルロ・クリヴェッリの技法解明に大きく貢献した研究成果といってよいだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
サン・ジミニャーノ参事会教会に描かれた『新約聖書』に導入された一部の特異な円光技法は、ストゥッコ技法によるシエナ派の一般的なものとは異なり、工房など他の場所であらかじめつくられた立体装飾のピースをフレスコ画の壁面に接着したものであると考えられる。この仮説を立証するために、今後の研究の推進方策を次のとおり計画している。 ① ストゥッコによるシエナ派の一般的な円光との違いを抽出する目的で、現地調査で入手した画像データの分析(6月~7月)、② チェンニーノ・チェンニーニの『絵画術の書』を中心とした当時の技法書から盛り上げ技法の調査(8月)、③ ①と②の分析調査に基づき、テストピースを作成する(9月から12月)、④ テストピースとオリジナルの画像データの比較分析(1月)、⑤ 実証実験で作成したテストピースをを現地に持っていき、目視によるオリジナルとの比較検証を行う(2月から3月) なお、研究成果の発表として、大学美術教育学会で口頭発表(9月)そして同学会誌に論文を投稿(3月)する予定である。
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Research Products
(5 results)