2018 Fiscal Year Annual Research Report
多剤排出トランスポーターを回避する細胞膜透過ナノキャリアの創製
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17H02096
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
森本 展行 東北大学, 工学研究科, 准教授 (00313263)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中山 勝文 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 客員准教授 (20453582)
最上 譲二 東北大学, 工学研究科, 助教 (70713022)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | スルホベタインコポリマー / 薬物送達 / 細胞膜透過 |
Outline of Annual Research Achievements |
本実施研究の目的は、従来にない生体膜透過性を示すスルホベタインポリマーの膜透過挙動を明らかとすること、さらにこのポリマーの膜透過性をもとに細胞小器官への高い選択性や、薬剤排出を回避しうるナノキャリアの設計とそのin vitro評価を行うことにある。 当該年度では、ポリマー末端構造が細胞内移行に与える効果について検討するため、末端官能基が異なる連鎖移動剤4種を新規に合成し、既存の連鎖移動剤2種を加え、これらを含んだポリマーをそれぞれ調製した。カチオン性基や疎水性が高くなると導入効率が減少すること、またポリエチレングリコールブロックを有すると細胞内移行量が増大することを明らかとしている。現在、より詳細な細胞移行性評価を続けている。 一方でこれまでに明らかとしてきた単層培養がん細胞への移行が、3次元細胞凝集塊へも適用しうるか検討した。肝がん細胞由来のHepG2細胞から3次元凝集塊を調製した。抗がん剤としてドキソルビシンを修飾したスルホベタインポリマーを血清存在下で添加した。ドキソルビシン単独では細胞凝集塊表層までしか到達しないのに対し、ポリマーではおよそ2時間で細胞凝集塊の最深部まで到達し、ポリマー修飾後も殺細胞活性を有していた。さらに細胞内の低pHや還元環境で分解しうる化学結合を介してドキソルビシン修飾を行ったものの、ポリマーの3次元細胞凝集塊内部への移行性が著しく低下した。 また、スルホベタインユニットにピリジニウムカチオンを導入したメタクリルアミドモノマーおよびホモポリマーを合成した。このポリマー生理塩強度において下限臨界共溶温度を示し、その温度は分子量や側鎖のスペーサー長により変化させえた。さらにこのポリマーを細胞へ添加すると、細胞低毒性で細胞膜透過性を示し、37℃より低温の4℃において細胞への移行が増大することを見いだした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度のまでの進捗状況は、概ね順調に進んでいると評価できる。ポリマーの調製とその細胞内導入評価について、ポリマーの効果が3次元凝集塊へも適用の可能性を示すことができたことは当初計画以上に進展していると評価できる。また抗がん剤の各種修飾方法はほぼ確立できてきたがより高い修飾効率を得るための条件検討の余地がある。スルホベタインポリマーの最適化においては、末端構造の知見が得られてきているがより詳細な検討が必要であろう。カチオン構造の異なるスルホベタインポリマーを設計、調製したが、このポリマーが予想以上に細胞低毒性で高い細胞内移行性を有していたことは誤算であった。しかし前向きであり、主鎖や側鎖の構造も含め知見を得ていく必要があろう。また細胞膜透過性評価については細胞膜障害性、人工リン脂質膜透過性について検討を続けており、特に膜障害性について重要な知見を得られつつある。スルホベタインポリマーが人工リン脂質膜透過能を示すことを明らかとしたが、ポリマー、あるいはリン脂質組成により膜透過能が容易に消失することがわかり、評価の継続については慎重に検討したい。
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Strategy for Future Research Activity |
1)細胞内導入効率の向上を目指したスルホベタインコポリマー構造の検討:前年度までの研究から、ポリマーの分子量やノニオン性末端構造の親疎水性が細胞内への移行挙動や導入効率を変化させうることを明らかとした。この知見を元に、今年度はポリマーの主鎖およびベタインモノマーユニットを有する側鎖構造が細胞膜透過性に与える効果を検討することで細胞膜透過ポリマーの最適化を図る。 2)抗がん剤修飾スルホベタインコポリマーの効果:前年度に最適化した各種抗かがん剤への修飾法を用いてスルホベタインポリマーに導入し、がん細胞を単層・三次元で培養し、ポリマー修飾が細胞に与える効果を、多剤排出効果が著しい三次元培養に着目してその耐性評価を進めていく。 3)スルホベタインコポリマーの細胞膜透過機構の検討:スルホベタインコポリマーの細胞膜透過においてエンドサイトーシスを阻害しても導入されること、さらに糖鎖は影響を与えないことを明らかとしている。ここでは、前年度に引き続きポリマー構造が膜障害性に与える効果の検討、および人工リン脂質二分子膜に対するポリマーの透過性について評価する中で膜透過機構の解析を行っていく。
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