2017 Fiscal Year Annual Research Report
セレンの特異的な反応性を利用したユビキチン化糖タンパク質プローブの新規合成法
Project/Area Number |
17H02211
|
Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
和泉 雅之 高知大学, 教育研究部総合科学系複合領域科学部門, 教授 (80332641)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | ユビキチン / 糖タンパク質 / 連結反応 / 脱セレノ化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、遺伝子の変異やストレスなどにより変性した糖タンパク質のユビキチンープロテアソーム系による分解機構を明らかにするためのプローブとして、ユビキチンの付加位置や数、糖鎖の構造、タンパク質部分の立体構造が異なる数種類のユビキチン化糖タンパク質を合成する。ユビキチン化糖タンパク質の合成には、効率的なユビキチン化反応の開発と原料となるユビキチンの十分量の供給が不可欠である。本年度は、本研究課題の鍵反応であるセレンの特異的な反応性を利用したタンパク質の新規ユビキチン化反応であるセレノイソペプチドケミカルライゲーション (SeICL) 法の開発と、ユビキチンの原料となる3つのペプチドセグメントの合成を行った。本研究の申請書にも書いたとおり、研究代表者は今年度より高知大学に異動した。そこで、本研究課題を進めるために、本年度はまずペプチド合成に必要な実験設備の整備を行った。そして、BocおよびFmoc固相合成法によるユビキチンの3つのペプチドセグメントの合成を行い、十分量のペプチドチオエステルの合成が可能な実験環境が整っていることを確認した。一方、SeICL法の検討に関しては、本研究でプローブとして利用する計画の糖タンパク質CCL1の部分ペプチドセグメントにδ-セレノ-リジン残基を組み込んだペプチドを合成し、ユビキチンのC末端配列を有するペプチド-α-チオエステルとの縮合と引き続く脱セレノ化の条件検討を行い、SeICL反応がシステイン残基を損ねることなく進行する条件を見出した。このSeICL反応の検討は、申請書の研究体制にも書いた通り、研究代表者の指導のもとで以前の勤務先の学生が行い、日本化学会春季年会でその研究成果を発表した。この成果により本研究の鍵反応を進行させることができるようになったため、今後は本反応を利用して実際のユビキチン化糖タンパク質プローブの合成を行っていく。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要にも書いたとおり、申請者は本年度より高知大学理工学部に異動した。したがって、まず本研究を進めるための実験環境の整備が必要であった。本研究では、タンパク質の化学合成に必要なペプチド固相合成装置、凍結乾燥機、ペプチド合成用のアミノ酸や縮合剤などの試薬類などと、δ-セレノ-リジン誘導体を合成するための一般的な低分子の有機合成に必要な実験設備、そして糖タンパク質合成に必要な糖鎖を鶏卵より単離するためのゲルろ過や中圧カラムクロマトグラフィー装置などが必要である。また、高知大学理工学部では初年度は研究室に卒業研究の学生をつけない方針のため、本年度は研究代表者一人で全てを行う必要があった。実験装置の整備などには当初予定よりもすこし時間がかかったが、実際にユビキチンの合成に必要な3種類のペプチド-α-チオエステルおよびペプチド-α-ヒドラジドをBocおよびFmoc固相合成法で10数mg合成することができ、今後の実験計画の進行に不可欠なペプチド固相合成ができる環境を整備することができた。このようにユビキチンのペプチドセグメントは合成したが、本年度の研究実施計画にあるオリゴユビキチンの合成の基礎となるδ-セレノ-リジン残基を組み込んだユビキチンセグメントの合成までは進んでおらず、実施計画に対して進捗状況はやや遅れているとした。しかし、別のペプチドセグメントを利用して新規SeICL反応の反応条件の検討は済んでいるため、来年度以降で遅れは十分取り戻せると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年1月より卒業研究生が研究代表者の研究室に所属し、ペプチド合成の基本的な操作を習得し合成を進めていける状態となった。δ-セレノ-リジンの合成と鶏卵からの糖鎖の単離も各1名の学生をつけて進めていく予定である。本研究の遂行に必要な三つの基礎的技術(ペプチド合成、δ-セレノ-リジンの合成、糖鎖の単離)をまず軌道に乗せ、その基盤の上でオリゴユビキチンの合成、モノユビキチン化糖タンパク質の合成、そしてそれらを組み合わせたオリゴユビキチン化糖タンパク質の合成と申請書に書いたとおりに順次研究を進めていく予定である。 本研究は、ユビキチン化糖タンパク質という少なくとも分子量2万を越える非常に複雑な有機化合物の合成を目指しており、それぞれの構成パーツを十分量供給できないと最先端にたどり着くことは困難である。少し進展が遅く見えるかもしれないが、本研究の鍵反応であるSeICL反応が当初の予想通りに選択的に進行することが確認できたので、今後はSeICL反応が実際の糖タンパク質のユビキチン化にも適用できることを証明し、目的とするユビキチン化糖タンパク質の合成を目指していく予定である。
|
Research Products
(1 results)