2018 Fiscal Year Annual Research Report
ヴェーダからポスト・ヴェーダの宗教・文化の共通基盤と重層性の研究
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17H02268
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
梶原 三恵子 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (00456774)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤井 正人 京都大学, 人文科学研究所, 教授 (50183926)
手嶋 英貴 京都文教大学, 総合社会学部, 教授 (30388178)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ヴェーダ / ブラフマニズム / ヒンドゥイズム / インド / 南アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、梶原三恵子(研究代表者)、藤井正人(研究分担者)、手嶋英貴(研究分担者)が研究を分担し、研究協力者たちの協力も得ながら、ヴェーダ期とポスト・ヴェーダ期の宗教・文化の共通性と非共通性をさまざまな角度から分析・検討し、古代から古典期インド文化の重層的な構造を解明することを目的としている。第2年度である平成30年度の研究実績の概容は以下のとおりである。 梶原は、ヴェーダ聖典の次世代への伝承を担う聖典学習者をさす「ブラフマチャーリン」というサンスクリット単語の用例を、初期・中期・後期ヴェーダ文献を渉猟して調査し、ヴェーダ文献におけるこの語の意味範囲の振幅を確定することで、この語がその後のヒンドゥイズムにどう展開していったかを研究するための基礎作業を行った。藤井は、『ジャイミニーヤ・ウパニシャッド・ブラーフマナ』が、ヴェーダ文献史の中で最初のウパニシャッドとして成立する状況を、祭式と思想の両面から解明した。また、中期ウパニシャッド文献においてブラフマン神と王座が描かれている場面を解析し、古代インドの祭官階級と王権との関係を研究した。手嶋は、古代インドの王権儀礼研究の一環として転輪王説話の展開をまとめた。さらに、本来は王権儀礼であるアシュヴァメーダ祭が、ポスト・ヴェーダ期には一種の贖罪儀礼として扱われるようになる過程を、文献と碑文を渉猟して研究した。 それぞれの研究成果は、学会にて口頭発表するとともに、一部はオープンアクセスの学術誌にて出版公開した。さらに、シンポジウムを二度、本研究課題と京都大学人文科学研究所共同研究との共催にて東京と京都で開催し、研究者コミュニティに加えて一般にもアウトリーチを図った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者と研究分担者が互いの専門を補完しつつ協力し、ヴェーダ文化とポスト・ヴェーダの接点を探る成果をあげた。 梶原は、「ブラフマチャーリン」という単語のヴェーダ文献における用例を精査し、この語が初期ヴェーダ以降一貫してヴェーダ聖典を学習する「ヴェーダ学生」を意味する一方、中期ヴェーダ以降は「性的禁欲者」をさす例も現れるという分析結果を得た。そして、それでもなおこの語が後代まで「ヴェーダ学生」という意味を保持したのは、ヴェーダ末期からポスト・ヴェーダ期に興ったアーシュラマ論でこの語が「ヴェーダ学生」として用いられたことに拠るところが大きいと結論づけた。 藤井は、『ジャイミニーヤ・ウパニシャッド・ブラーフマナ』が、ヴェーダ文献史の中で最初のウパニシャッドとして成立する状況を、祭式と思想の両面から解明した。また、古代インド思想の重要概念である「ブラフマン」が男性神格として登場しはじめる中期ウパニシャッド文献において、ブラフマン神と王座が描かれている場面を解析し、古代インドの祭官階級と王権との関係が背景にあることを解明した。 手嶋は、王権儀礼アシュヴァメーダ祭について、ヴェーダ期からポスト・ヴェーダ期にかけての挙行意図や文献における位置づけの変遷の研究を継続した。本来は王権儀礼であるアシュヴァメーダ祭が、ポスト・ヴェーダ期には一種の贖罪儀礼として扱われるようになる過程を、文献と碑文を渉猟して調査した。 また、本研究課題の特色のひとつである京都大学人文科学研究所共同研究「ブラフマニズムとヒンドゥイズム―南アジアの社会と宗教の連続性と非連続性」(研究班長・藤井、副班長・手嶋)との連携協力を生かして、「古典インドの哲学と学問―始まりと展開―」(平成30年10月、京都大学)と、「古代・中世インドの王権と宗教」(平成31年3月、東京大学)との、二度のシンポジウムを同共同研究と共催した。
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Strategy for Future Research Activity |
梶原は、ヴェーダ聖典の学習儀礼について詳細の分析をさらに進める。この問題はこれまで、後期ヴェーダに属するグリヒヤスートラの規定に基づいて研究されてきたが、それに加えて、中期ヴェーダに属するアーラニヤカ文献およびウパニシャッド文献から当時の学習儀礼の痕跡を示す文章を収集し、より古い形を探る。 藤井は、インド思想における輪廻思想の始源に関する研究を、ヴェーダ祭式との関連という観点から進める。とくに、生きている間に祭式によって身体に対応する諸要素を天界に送っておき、死後に天界に上昇してそれらと合体し、身体を再構成して天界に再生するという観念の発達過程を調査する。 手嶋は、ヴェーダ王権儀礼からヒンドゥー王権儀礼への変遷過程に関する調査を進める。とくにヴェーダ儀礼の祭主による祭官への施与と、中世王権儀礼の特徴である「大施与」(mahadana-)との歴史的関係の有無を検討する。 研究の成果は、国内および海外での学会発表と、和文および英文の学術論文の出版によって順次公開していく。また、今年度に引き続きシンポジウムを開催し、ひろく一般に研究成果を公開する予定である。
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