2017 Fiscal Year Annual Research Report
ショーペンハウアー研究の新世紀へ―主著刊行200周年を機縁とした国際共同研究
Project/Area Number |
17H02281
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
高橋 陽一郎 日本大学, 文理学部, 教授 (80333102)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上野山 晃弘 日本大学, 危機管理学部, 専任講師 (00440024)
板橋 勇仁 立正大学, 文学部, 教授 (30350341)
多田 光宏 苫小牧工業高等専門学校, 創造工学科, 准教授 (40413710)
竹内 綱史 龍谷大学, 経営学部, 准教授 (40547014)
伊藤 貴雄 創価大学, 文学部, 教授 (70440237)
齋藤 智志 杏林大学, 外国語学部, 教授 (70442019)
河村 克俊 関西学院大学, 法学部, 教授 (90283910)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 西洋思想史 / ショーペンハウアー |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究課題を遂行するための第一段階として、ショーペンハウアーの主著『意志と表象としての世界』が成立するまでに残された初期遺稿を研究することが中心課題となった。国際会議「若きショーペンハウアーとその時代」では、こうした研究の成果として、批判主義の真義(Matthias Kossler)、インド思想からの影響(Martina Kurbel)、ロマン主義からの影響(Thomas Regehly)、シェリング哲学からの影響(Erik Eschmann)、身体の超越論的構造(鎌田)、理性概念(Matteo d'Alfonso)、感情概念(林)、イデアと時間(高橋)、帰納と抽象(太田)、ゲーテとの相互関係(堀)という観点から、『意志と表象としての世界』を形づくる諸思想が検討された。従来の研究、ことにわが国のショーペンハウアー研究では、しばしば『意志と表象としての世界』という完成された作品からショーペンハウアーの思想を抽出する方法が採られていたが、今回の諸研究はいずれも新しい遺稿に定位して本書の裏舞台に光を当てたものであったため、若きショーペンハウアーが自らの思想の着想を得た源泉が、次々と明らかにされることになった。とりわけ、「よりよい意識」のような初期思想の着想が、異なった複数の源泉(たとえばロマン主義とインド思想)から得られている可能性があることなどは、海外からの招聘者の研究を含む今回の研究を経なければ得られなかったであろう点であり、大きな成果であったと評しうる。 さらに、以上のような初年度の成果は、一層本格的な研究の集積が期待される2018年度に先駆けて、ショーペンハウアーがその初期から(上記「よりよい意識」に代表される)救済の思想を抱いていたことを物語る結果となり、人びとの内面的な救済が急務の現代に対して、少なからぬ意義をもちうることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度(2017年度)は、ショーペンハウアーの主著『意志と表象としての世界』の刊行200周年(2018/19年)の一年前に当たる年であった。したがって、当初より研究テーマ並びに研究成果報告会としての国際会議名を「若きショーペンハウアーとその時代」とし、主著生成に至るまでの若きショーペンハウアーの悪戦苦闘のドキュメントを追うことを目的としてきた。この点に鑑みるかぎり、上掲の諸成果はすべて、本書形成期の初期遺稿に多かれ少なかれ基づきながらこれまでにない新知見を開陳したものであった。本書刊行200周年を目前に控え、本格的に主著(第一版)の中身の検討を予定している2018年度の研究を開始する前に以上のような成果を得られたことは、研究の順序から見て「おおむね順調に進展」したと評価して差し支えないと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策としては、次のようなものが想定されうる。まず研究内容に関して言えば、第一に、対象となる中心テキストを初期遺稿から主著『意志と表象としての世界』(批判版)へと移すこと、第二に、超越論的認識論に特化する傾向にあった2017年度の研究領域を、主著の四巻構成に即応させて、自然哲学、美学、倫理学、宗教論、東洋思想との比較研究といった領域へ拡張すること、この二つである。次いで、企画上の推進方策として、以上のような研究内容に合致させるべく、研究と発表の場を増やすことが求められる。具体的には、これまでのような二日間の国際会議を四日間に拡張し、招聘研究者の数も増加させることが求められる。さらに、ショーペンハウアーが他の西欧哲学者と著しく異なる点として挙げられる東洋思想からの絶大な影響を確証するにあたり、日本で研究と発表の場を持つことは格好の機会だと思われるため、2018年度は京都の龍谷大学を会場として、研究の一層の推進を図りたいと考える。
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Remarks |
高橋陽一郎「両義的解釈への問い―板橋勇仁氏著『底無き意志の系譜―ショーペンハウアーと意志の否定の思想』をめぐって」、『ショーペンハウアー研究』第22号、2017年。 板橋勇仁「哲学の有機性?―高橋陽一郎氏著『藝術としての哲学―ショーペンハウアー哲学における矛盾の意味』をめぐって」、『ショーペンハウアー研究』第22号、2017年
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