2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17H02299
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
大久保 清朗 山形大学, 人文社会科学部, 准教授 (00624719)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野崎 歓 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (60218310)
木下 千花 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (60589612)
三浦 哲哉 青山学院大学, 文学部, 准教授 (70711844)
伊津野 知多 日本映画大学, 映画学部, 准教授 (80308147)
堀 潤之 関西大学, 文学部, 教授 (80388412)
角井 誠 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (90803122)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 映画 / 映画批評 / 映画理論 / リアリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はサブテーマ「リアリズム再考」のもとに、2017年8月5日に第1回アンドレ・バザン研究会を開き、堀潤之、伊津野知多、角井誠が発表を行った。堀潤之は「「写真映像の存在論」論の系譜」において、バザンが自らの映像論を形成するにあたりサルトルの想像力論やマルローの「芸術心理学の素描」をどのように批判的に取り入れていったかを検討した。伊津野知多は「アンドレ・バザンのリアリズム概念の多層性」のもと、「存在論的」「美学的」「心理学的」の三区分によりバザンのリアリズムの多層的な性質を明らかにした。角井誠の「リアリズムとアダプテーション――ダドリー・アンドリューによるアンドレ・バザン」は2018年に招聘を予定しているダドリー・アンドリューによるバザン論において中心的な主題のひとつとなっているリアリズムとアダプテーションの問題を整理し、現在の映画理論のなかに位置づけた。 以上の研究の成果を踏まえ、『アンドレ・バザン研究』第2号を刊行した。内容は大きく「存在論的リアリズム」と小特集「作家主義再考2」とした。前者においては、未邦訳のバザンの論考「現実主義的な美学のために」「リアリズムについて」「モンタージュの終焉」「シネマスコープ裁判」の訳出と解題、海外研究者による論考としてダドリー・アンドリュー「フェティッシュの存在論」、トム・ガニング「自身の似姿の中の世界――完全映画の神話」の訳出と解題、研究分担者による論考として堀「パランプセストとしての「写真映像の存在論」、伊津野「アンドレ・バザンのリアリズム概念の多層性」を掲載した。さらに、本研究開始以前の研究テーマ「作家主義再考」の継続としてフランソワ・トリュフォーの「アベル・ガンス卿」「アベル・ガンス、無秩序と天才」およびバザンの「批評に関する考察」の訳出と解題を収録した。 http://cahiersandrebazin.blogspot.jp
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アンドレ・バザンによる、映画におけるリアリズム関連の著作は数多く存在する。中心的位置を占める「写真映像の存在論」について、その草稿の内容について確認し、そこから完成版に至るバザンの映画理論の形成を、彼に先行する文学者や哲学者(マルロー、サルトル)との折衝から明らかにできた。またリアリズムを論じる際の多様な概念について、「存在論的」「美学的」「心理学的」という区分けから整理することができ、リアリズムの問題について、十分な検討がなされたといえる。 またその成果物としての刊行物である『アンドレ・バザン研究』第2号においても、これらの検討を発表でき、さらにバザンによる未邦訳の論考の翻訳に加え、それぞれの訳者による充実した解題によって、バザンをめぐるリアリズムの問題を理解する上で、必要最低限の歴史的コンテクストを日本国内の映画研究において共有することが可能となったといえ、本年におけるバザンのリアリズム研究については、当初の目的を十分に果たすことができたといえる。 また、次年度における海外研究者のシンポジウム招聘のために、招聘予定者のダドリー・アンドリューの論考を『アンドレ・バザン研究』第2号に訳出し、招聘についてのプロジェクトについても大まかな計画を立案することで、次年度の事業計画に向けての実現への準備も整えることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
バザンの生誕100年にあたる今年度には、海外のバザン研究者を招聘し、世界の映画研究におけるバザンの位置づけについて考察するシンポジウムを開催し、研究代表者、研究分担者、研究協力者を中心に、国内外の映画研究者、映画関係者との対話を試みる。招聘シンポジウムの記録は『アンドレ・バザン研究』第3号に採録し、ここでの討論を国内の映画研究の領域で共有していく。また、前年度の「リアリズム」研究を補完する作業として、バザンの論じた日本未公開の映画を実際に鑑賞する機会を設けることで、バザンの思考過程をより具体的に跡づける。 科研の申請当初に考えていた占領下の文化状況におけるバザンの問題については、これまでの研究(とりわけ2017年度におけるバザンのリアリズム論検討)を通して、バザンと戦後フランス現代思想史という文脈のなかで検討をすることがより適切であることが明らかとなってきた。そのため、ベンヤミンやドゥルーズといった思想家、哲学者の理論への接続可能性を探究することで、バザンの批評の今日的意義を総合的に再検討することを試みる。
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Research Products
(14 results)