2018 Fiscal Year Annual Research Report
Research on Transcultural Theatre: From the Perspective of the Alien
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17H02304
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
平田 栄一朗 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (00286600)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
針貝 真理子 慶應義塾大学, 文学部(三田), 講師(非常勤) (00793241)
北川 千香子 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 准教授 (40768537)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 演劇学 / パフォーマンス研究 / 文化研究 / オペラ研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
演劇・舞踊・オペラを対象にしつつ、グローバル化の現実を踏まえた新しい文化論を模索する本研究(越境文化演劇研究)は2年目に当たり、研究対象を拡大・多様化することを目指し、また理論面において本研究の独自性をより明確にすることを目指した。 今年度は主に旧西側ヨーロッパと日本の演劇やオペラ作品を研究対象としたが、1年目はハンガリー、旧東ドイツ、韓国の演劇・オペラ・パフォーマンスをテーマとした。その際、これらの文化圏の専門家(アダム・シチラク氏、バーバラ・グローナウ氏、セイリョン・コンヴィチュニー氏)を本研究プロジェクトに招き、研究会と講演会で上記の地域におけるパフォーマンスが提示した文化的問い掛けについて意見交換を行った。 考察対象の拡大はジャンルにおいても当てはまり、演劇やオペラだけでなく、ヨーロッパのコンテンポラリーダンスも考察した。同領域の専門家ゲラルト・ジークムント氏とエファ・ホリング氏(どちらもドイツ・ギーセン大学所属)を招いて共同シンポジウムを開き、舞踊が提示する文化の問題提起について議論した。議論を通じて、舞踊という身体を表現媒体とする芸術ジャンルであるからこそ、より開かれた言説(ディスクール)に基づく文化的考察が可能になることが確認できた。 理論的な側面では、演劇が独自にあるべき文化を模索する契機を多角度から考察した。それによって明らかになったのは、演劇にまつわるスペクタクル文化には「見せかけ」「やらせ」「虚構」「誇張」などの否定的な側面があるからこそ、演劇はみずからの否定的な側面と対決すると同時に、文化全般に潜む同様の問題とも向き合うことで、演劇が内在的に視覚文化の諸問題と取り組むことができる点である。本研究メンバーはこの意義について、2018年6月に開催された日本演劇学会のシンポジウム「文化を問う演劇」にて発表し、越境文化演劇の理論的意義を精査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
演劇やオペラの視点から文化のあり方を問い直し、新しい文化の考え方を構築する本研究は、2年目(合計3年間)においてもおおむね順調に進展していると考えている。それは次の3点において言える。 1点目は研究対象を1年目より拡大し、より多角度の視点から文化の可能性と問題を検討することができた点にある。1年目は、旧西側ヨーロッパと日本の演劇とオペラによる文化への問い掛けを考察対象としたが、2年目は、旧東ドイツやハンガリーなどの旧東ヨーロッパのパフォーマンスや、韓国出身のオペラ演出家の作品を考察対象することで、より幅広い文化領域のなかで文化の諸問題と芸術の意義を検討することが可能になった。 2点目は、文化の理論的考察を1年目よりも体系的に説明することが可能になったことである。文化という曖昧な領域を考察するには、現在の文化研究に相応しい概念の的確な理解と整理が必要である。本研究で文化の自明性を問う際に必要な概念は「アイデンティティ」「文化的差異」「異質なもの」「自己文化」と「異文化」などであるが、これらの概念を本研究に即した解釈の仕方が可能になった。 3点目は、本研究の成果発表へのスケジュールをより明確化できた点である。本研究の成果を2020年度中に書籍出版物によって発表する予定であるが、この書籍に研究成果を執筆する研究者を選定し、各研究者がどのようなテーマを扱うかについて研究チーム内で確認を取ることができた。これによって各研究者が全体の研究テーマを把握しながら、独自の研究テーマを探究する基盤が整った。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度に当たり、日本と海外の演劇・オペラ・文化研究者との研究会・シンポジウムを実施することで文化と舞台芸術の関連をより幅広い視点から議論する。主な企画は次の通りである。 2019年7月 ライプツィヒ大学演劇学研究所から2名の研究者(Guenther Heeg氏, Micha Braun氏)を招き、本研究の拠点である慶應義塾大学にて越境文化に関するコロキウムを開催する。本研究の成果報告集に参加する慶應義塾大学の若手研究者が研究発表し、ライプツィヒ大学の研究者と討論する。この企画の一環として、本研究の共同研究者が所属する東京藝術大学において、ライプツィヒ大学のHeeg氏による越境文化演劇論の講演会を開催する。 2019年12月 ドイツから2名の研究者を招聘し、本研究の拠点である慶應義塾大学で越境文化論のシンポジウムを開催する。招聘予定者に、アフリカ演劇による文化への問い掛けについて研究発表を行ってもらい、本研究がこれまで網羅してこなかったアフリカ演劇と文化との関連についての見地を深めることを目指す。 これらの国際的な企画や学会発表に加えて、週に一度、文化に関する研究会を実施し、研究代表者、分担者、数名の若手研究者が集い、ドイツ語や英語、日本語の関連文献について議論する。それらの多くの文献では、文化が批判的に検証されるが、文化がなぜ批判的に取り扱われる必要があるのか、批判の背景はどのようなものかについて、本研究に参加するメンバーが共通の認識を持てるようにする。またこれらの文献のなかで一般公開が望ましい外国語の論文や書籍を翻訳し、一般の方々が閲覧できることを目指す。 これらの企画を通じて本研究メンバーは国内外の研究者に新しい文化の意義を考察する論文の執筆に取り組む。論文を2020年3月までに完成し、その後、論文集を2020年度中に発表できるように努める。
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