2018 Fiscal Year Annual Research Report
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17H02305
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
乾 淑子 東海大学, 国際文化学部, 教授 (40183008)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小勝 禮子 京都造形芸術大学, 芸術学部, 非常勤講師 (80370865)
種田 和加子 藤女子大学, 文学部, 教授 (90171868)
日比野 利信 北九州市立自然史・歴史博物館, 歴史課, 学芸員 (90372234)
塩谷 もも 島根県立大学, 人間文化学部, 准教授 (90456244)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 日本髪 / 芸者 / 文化伝承 / ハイカラ / 洋装 / 洋館 / 海外流出 / 着物 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度の研究内容の第一は、2017年度から継続する日本髪に関する理解をより確かなものにするために、京都の山中恵美子氏の美容室において親しく指導を受けたことである。山中氏は伊勢神宮の斎宮のお髪上げも担当する美容師であり、時代装束に関する第一人者の一人でもある。また昨年に続いて東京下谷の大庭啓敬氏の指導にも与り、図版では詳細が不明な髪型について詳しくご教示賜った。 また、やはり2017年度から継続する芸者の文化・風俗に関するフィールドワークを京都と札幌で実施した。昨年の東京と大阪では主として文化の継承に尽力する傾向の高い料理屋によるものであったが、本年の京都と札幌の場合はむしろ従来型の男性の娯楽に奉仕するタイプの料理屋であった。中でも特筆すべきは札幌の料理屋は伝統的な料理屋建築・しつらいを保持しており、その雰囲気を知ることができた点である。 また本年の特色の一つは、明治から大正期のハイカラ風俗の中の大きなファクターである洋館に関する実習として、鎌倉の旧前田家別荘、駒場の旧前田邸、京都の大山崎山荘、札幌の旧永山武四郎邸などを見学した。また鎌倉の吉屋信子記念館と旧永山邸では研究発表会を開催し、研究代表者と協力者が研究成果の報告を行い、活発な議論があった。 さらに夏にはハンブルグ芸術工芸美術館とベネチア東洋美術館において、明治期から近年までに欧州に流出した着物の調査を実施した。収集内容は実に玉石混交であり、貴重な作例と最近のレンタル衣装業者が放出した古着や状態の悪いものなども混在していた。どのような来歴・状態のものであろうと保存する価値はないとは言えないが、展示に際してはやはり日本人の詳しい者が関与する必要が痛感された。 また、本研究課題以外の研究会(ジャポニスム学会シンポジウムや文化学園シンポジウム等)にも積極的に参加し、互いに貴重な経験・情報交換を行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本の近代化に関する一側面としての服飾への現れを考察することが本研究課題の目的であるが、すでに研究期間の3分の2を過ぎた。ある意味では非常に順調な進捗を遂げつつあると言える。サブタイトルとして掲げた「ハイカラ」については束髪・断髪・リボン等の髪型および洋服などの服飾の周辺およびハイカラな生活を支える洋館等について考察した。またもう一つのキーワードである「上品」と対峙して語られる花柳界については、我々が最も苦手とする分野であるだけにかなりの時間をかけて調査した。 また2019年度中に研究代表者・分担者・協力者の共著になる報告書を発行する予定であるが、そのために2018年度中も各自の研究成果を持ちよっての討議も活発に実施した。研究協力者の一人である田中圭子氏は、この成果の一貫としての単著を本年中に上梓する用意を2017年度より進めている。 大衆レベルでの近代化受容(西欧化)を考察する際に重要と考えられる吉屋信子による戦前期の小説も分析対象としたが、影響を受けたと思われるヨーロッパの国の偏りについて調べたところ、官製の文化移入とは別な民間レベルでの人的な交流をも軽視するべきではないことが明らかになった。 想定外の事象が生じたことの影響はあり、研究協力者を予定していた木村孝氏の逝去は、御高齢であったとはいえ大きな打撃であった。大正期の西陣に生まれて、染織技術と歴史的考察の両方に通じ、お若い頃から洋の内外に明るかった木村氏の該博な知識が失われたことは本研究課題にとって非常な痛手である。 しかしその後、若い研究協力者6名ほどに新たに参加していただき、それぞれの専門分野からのアプローチが重ねられたことは実に新鮮な刺激であり、実り多いものであるばかりか、若い方々の研究をサポートし、次世代に伝えるべきものを再認識する思いがけない幸運に恵まれたといえる。今後もサポートを続けたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度と2018年度の継続課題である日本髪および花柳界に関する調査は継続する。特に論文をまとめるに当たっては、素人考えで憶測に基づく記述を避けるために、専門家である結髪師、芸者、悉皆屋などのアドバイスを重視する。ただし今後フィールドワークはあまり行わない。各自の研究成果に関する討議、検証を本年度は最大の課題としており、4月末にもその第一回を実施したが、非常に貴重な一次資料(野口小蘋と娘のデザインによる帯、着物を解いて仕立てた軸、衝立など。また万博記念絵巻、刊本の和書等)を手にして親しく検討することもでき、活発に討論した。今後もこの方針を継続したい。 「上品」についてはこれまでやや等閑視してきたが、明治から昭和初期にかけて実際に女性が身につけていた着物のうちの最上級なものである池田コレクションなどについての考察を行う。これらの上質なコレクションについては学問として取り上げることが少なく、そのために海外における評価との隔絶が生じている。劣化しやすい着物の保存のためにも早急に急がれる課題であると言えよう。 また「ハイカラ」の対義語である質素な着物(襤褸・ボロと称される)については研究分担者である日比野氏の所属する北九州私立博物館の収蔵品等についての考察を実施する。これは実際には日本人の過半が着用していた着物類についてであり、本研究課題において重要なモチーフである。 さらに浮世絵における服飾表現、万国博覧会に参加した芸者への海外の視線から再構築される近代日本女性、近代化によって排除された傾向のある文人画の諸問題等々の多様な観点を擁して、それらの集大成が華やかに実るよう努める所存である。
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Research Products
(14 results)