2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17H02314
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Research Institution | National Institute of Japanese Literature |
Principal Investigator |
小林 健二 国文学研究資料館, 研究部, 教授 (70141992)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
齋藤 真麻理 国文学研究資料館, 研究部, 教授 (50280532)
恋田 知子 国文学研究資料館, 研究部, 准教授 (50516995)
リーブズ クリストファー 早稲田大学, 文学学術院, 講師(任期付) (60776186) [Withdrawn]
海野 圭介 国文学研究資料館, 研究部, 准教授 (80346155)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 語り物芸能 / 幸若舞曲 / 絵巻 / 絵本 / 屏風絵 / 古浄瑠璃 / 説経 / 海外調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は幸若舞曲など語り物芸能を題材とする国内外の絵巻・絵本を国文学・美術史学の分野から複眼的に調査研究することにより、語り物芸能が絵画化して流布する様相と文化史的な意義の解明を目的とする。 当該年度は、当初の計画に基づいて、平成31年3月より広島県の海の見える杜美術館で行われた「幸若舞曲と絵画」展を、本科研費の成果発信の一つに位置づけ、共同研究のメンバーである同美術館学芸員である谷川ゆきが展示を担当し、代表の小林健二が監修をつとめた。また展示の開催に際して図録を作成したが、小林と谷川の他に、分担者である恋田知子が解説を執筆し、協力者の粂汐里がコラムや年表の執筆をした。 この展示に備えて平成30年6月に国文学研究資料館で研究会を行い、小林健二が「「舞の本」を粉本とする絵巻・絵本」、谷川ゆきが「狩野友雪筆の九巻本「夜討曽我」絵巻」についての発表を行い、また、展示に出陳する島根県手銭記念館の「烏帽子折絵巻貼付屏風」と鳥取県渡辺美術館の「曽我物語図屏風」、日本大学図書館の『幸若舞曲集』(絵巻5軸)の調査を行った。 また、平成30年6月に、説話文学会大会でシンポジウム「判官物研究の展望」を代表の小林が企画と実施して、語り物の絵画化について基調報告を行い、分担者の齋藤真麻理が研究発表をし、平成30年10月に、小林は碧南市美術館で新出の語り物の絵巻である「てこぐま物語」を紹介する講演を行い、これに際して「てこぐま物語」の連れである神戸松蔭学院大学の「おかべの与一」の調査を行うなど、国内の資料調査を活発に行った。 海外の調査研究としては、平成31年3月に、ニューヨークのコロンビア大学で行われた国際シンポジウムで恋田が語り物を含めた絵入り本の発表を行い、また、小林と谷川、協力者の酒井公子でニューヨーク公共図書館のスペンサーコレクションの「夜討曽我」と海北友竹筆「酒呑童子絵巻」の調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本科研費による共同研究の成果を発信する大きな柱として、海の見える杜美術館で開催した「幸若舞曲と絵画」展を位置づけていたが、その実施に関して共同研究のメンバーがかかわり、海の見える杜美術館の『舞の本絵本』47冊と日本大学図書館所蔵『幸若舞曲集』絵巻5軸を熟覧調査することができたのは大きな収穫であった。 この成果を踏まえて、絵入り版本「舞の本」三十六番を粉本とした、チェスタービーティ・ライブラリィ系の『舞の本絵巻』(現在、11軸15番を確認)と日本大学図書館系の『幸若舞曲集(舞の本絵巻)』(6軸11番を確認)、そして海の見える杜美術館蔵の『舞の本絵本』36番47冊を比較検討することができ、粉本とする絵巻・絵本が本文はほぼ忠実に「舞の本」に拠っているのに関わらず、挿絵に関しては図数や位置は踏襲するものの、図様は独自の物語解釈によって描かれており、絵巻・絵本の構図が共通することから、同じ絵手本に拠っていることが判明した。さらにチェスタービーティ系絵巻と海の見える杜美術館絵本がより近い関係にあり、これらが同一の絵屋(工房)で製作されていることも推測された。 この調査研究の成果は、本共同研究の大きな進展であり、代表の小林健二が「幸若舞曲と絵画」の図録に「「舞の本」を粉本とする絵巻・絵本」と題して発表をした。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの調査研究で「舞の本」を粉本とする絵巻・絵本の制作状況についてはかなり見通しがたってきたが、ここに来て、パリのフランス国立図書館が日本大学図書館系の『舞の本絵巻』(内容は「伊吹」「文覚」「硫黄ガ島」)を購入したとの情報を得たので、ベルリンの東アジア美術館の所蔵する『舞の本絵巻』(「烏帽子折」)とともに調査を行いたい。 また、海の見える杜美術館の「幸若舞曲と絵画」展に出陳した手銭記念館の『烏帽子折絵巻貼付屏風』に貼られる「烏帽子折」の絵巻は本文や挿絵の内容から、室町末期までに作られたと位置づけられ、「烏帽子折」諸本中でも屈指の古本であることがわかったので、本文を翻刻し、挿絵の分析とともに紹介する。 本年度が最終年度になるので、共同研究のまとめとして、説話文学会シンポジウムで発表した『源義経一代記図屏風』が語り物文芸を絵画化したものであることの成果や、海の見える杜美術館の「幸若舞曲と絵画」の図録に掲載された成果、また、期間中に行った研究会での発表や報告をまとめて論集を刊行する予定である。
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