2018 Fiscal Year Annual Research Report
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17H02334
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
由本 陽子 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 教授 (90183988)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉岡 洋子 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 教授 (00187650)
伊藤 たかね 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10168354)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 形容詞 / 複合語 / 派生語 / 項構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度英語の語根形容詞を主要部とする複合語のうち、規則による形成とみなして間違いがなさそうな、X+dependent, X+familiarなど5種とそれに対応する形容詞を名詞化したものを主要部とする複合名詞)(e.g.X+dependence, X+familiarity)をコーパスにより収集し、その結果、「第一投射の原理」(Selkirk(1982))を始めとする、総合複合語の形成が基体動詞の項構造によって制約されていることを主張した先行研究による知見は、一部のカテゴリーにのみ該当するものと言わざるを得ないことが明らかになった。すなわち、補語をとる形容詞を基体とする複合形容詞は、形容詞の補部が結合することが義務的だが、それが名詞化すると、この原理に反する複合が許されるということである。この研究成果は由本(2019)に公表したが、この結果をふまえ、「第一投射の原理」が動詞からの派生形容詞を主要部とする場合にも適用できるのかについて検討した。まだ調査の途中ではあるが、fat-reduced (diet), vitamin-enriched (milk)のような基体動詞の項だが、分詞形容詞にとっては、叙述対象(すなわち「主語」)にあたる名詞と結合した複合語が一定数存在することがわかった(伊藤(準備中))。これらは、Selkirk(1982)の分析に反するものだが、結合する名詞の特性、すなわち物体を構成する要素であるということが、容認性の要因となっていると考えられる。この点で、日本語の複合形容詞の中でもっとも生産性が高いタイプとして由本(2009)が取り上げたタイプと類似するが、由本(2019)で主張したように、厳密には異なる性質の名詞とすべきである。複合形容詞に関わる制約が、主要部の項構造などの性質だけでなく、結合する名詞の性質によって異なる可能性が示唆されることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
英語の形容詞については、コーパスを用いた調査を行い、語根形容詞を主要部とする複合においてある程度生産性がある形容詞については、Selkirk (1982)の「第一投射の原理」によってその制約が説明できることが明らかになった。そこで、英語の形容詞については、従来から認められているように、前置詞句補部をとる場合はそれを内項とし、修飾対象である「主語」は外項と見なすのが妥当であるという結論が示唆された。しかし、動詞由来複合語のように、どのような基体についても項との複合が生産性があるとは言えないことも明らかになった。また、いっぽうで、形容詞からの派生名詞を主要部とする複合については、コーパスによる調査結果は、「第一投射の原理」によって説明することができないものであった。先行研究では、動詞からの派生名詞を主要部とする事象名詞については、日英語ともにこの原理に従った制限が見られるのに対して、日本語の、事象名詞と表面上は同じ「名詞+動詞連用形」でありながら、動名詞や形容名詞として用いられる複合語については、この原理が適用されないことが示されている。このことも考慮して以上の調査結果を振り返ると、当初予定していた、複合において結合できる要素にどのような制約があるかを明らかにすることが、形容詞の項構造を明らかにする方策として有効なものなのかという問題が浮上してきた。特に、一旦名詞化したものを主要部とする複合は語根複合語を形成する可能性もあるため注意が必要である。そこで、動詞から派生した分詞形容詞についても調査を行い、少なくとも主要部が形容詞である場合にはその内項は複合語内に表されねばならないという制約があるのかどうか見極めることにより、前述の英語の複合形容詞に関する我々の観察の妥当性を検証しようとしているが、調査を頼めるアルバイトが見つからず、まだ十分なデータが集まっていない状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)英語の動詞からの派生形容詞(過去分詞形や現在分詞形のもの)を主要部とする複合語において、動詞から受け継いでいると思われる項との結合が義務的だと言えるかどうかを、コーパスを用いた調査により明らかにする。また、その中で、fat-reduced (diet)のように、基体動詞の内項にあたるもので、分詞形容詞にとっては、叙述対象であり先行研究によっては外項ともみなされる項に変化しているはずの名詞と結合している例について、結合している名詞の性質を明らかにする。(2)日本語についても、語根形容詞を主要部とする複合形容詞だけでなく、動詞の連用形を主要部とし、述語名詞として用いられている複合名詞(例:このジャムは「瓶詰め」だ。田中さんは「大学出」だ。)がどのような制約のもとに形成されているかを明らかにする。(3)日英語の動詞派生形容詞が、事象叙述から属性叙述への意味的シフトに伴い、どのような項構造に変更を生じているかを明らかにし、その一般化が意味的な変更とどのように連動しているのかについて考察する。杉岡(2020)では、心理状態を表す動詞を基体とする日本語の-asi接辞化(例:「好ましい」「うらやましい」)と英語の-able接辞化の(例:likable, enviable)を比較したが、より広い意味クラスについてこの考察を拡張していく。(4)コロナウィルス感染防止のために多くの学会や研究会が開催を危ぶまれており、本課題の成果発表のために計画していたワークショップも対面での開催は難しいため、オンラインによる開催など、別の方法による成果発表および専門家の意見交換の場を設けることを考えている。
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Research Products
(14 results)