2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17H02398
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
高松 洋一 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (90376822)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
近藤 信彰 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (90274993)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | イスラーム史 / 簿記術 / 史料研究 / 中東 / オスマン朝 / サファヴィー朝 |
Outline of Annual Research Achievements |
定例研究会:前年度までの科研費課題「イスラーム圏におけるイラン式簿記術の成立と展開」を継承する形で、公益財団法人・東洋文庫において毎月1回(1年間で計8回)の研究会を開催した。サファヴィー朝シャー・タフマースプ時代に著されたギヤース・アッディーン・アブー・イスハーク・ケルマーニーの『簿記術論説』第3部「アワールジャ(awarja)とそれに関する事柄について」の講読を行ない、そこに含まれる種々の内容の帳簿の実例を読み進めた。イランのゴム市にあるマルアシー図書館所蔵の写本を底本としつつ、マジュレス図書館(2写本)、アースターネ・ゴッズ図書館所蔵の1写本、計4写本の比較検討を通じ、ペルシア語校訂テキストと日本語訳を作成した。またこれまでの定例研究会の成果のいちおうの集大成として、研究協力者の渡部良子・阿部尚史両氏が、研究会で講読した『簿記術論説』の序論のうち簿記術そのものの解説に関わる部分、すなわち第7章、第9~15章のテキストと訳注を、「16 世紀サファヴィー朝期のペルシア語財務・簿記術指南書:ギヤース・アッディーン・キルマーニーの簿記術論文・序論簿記術論校訂・日本語訳注」として『アジア・アフリカ言語文化研究』94号(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所、2017年9月30日)に発表した。 若手研究者の育成:2018年1月20-21日にアジア・アフリカ言語文化研究所で「オスマン文書セミナー」を開催し、全国から大学院生、若手研究者を集め、オスマン朝下で作成された帳簿の実例の講読を行った。 海外調査派遣:写本・文書史料の調査のため、研究代表者の高松洋一と研究協力者の岩本佳子をトルコのイスタンブルに、 研究分担者の近藤信彰と研究協力者の渡部良子をイランのテヘランに、それぞれ派遣した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東洋文庫で定期的に開催される定例研究会は、前年度までの科研費課題「イスラーム圏におけるイラン式簿記術の成立と展開」の時期から数えて合計35回におよび、ギヤース・アッディーン・アブー・イスハーク・ケルマーニーの『簿記術論説』の講読は順調に進んでいる。『アジア・アフリカ言語文化研究』94号に刊行された序論の主要部分と第1部の仮校訂と日本語訳に引き続いて、同書第2部以降に関しても、研究協力者の渡部良子・阿部尚史両氏を中心に校訂・訳注作業が着実に進められている。帳簿の実例を豊富に含む第3部「アワールジャ(awarja)とそれに関する事柄について」においては、写本に手書きアラビア文字で記された物品の名称、単位等で若干解読できていない箇所もあったが、研究会参加メンバー間での議論を通じて、かなりの程度まで解読を進めることができている。 『簿記術論説』と比較対照すべき簿記術指南書の収集も進み、ペルシア語に基づくイラン式簿記術の術語に関するマニュアルの作成に向けて準備が整いつつある。 またこれまで閲覧許可の取得・利用が非常に困難だったイスタンブルのトプカプ宮殿博物館文書館の文書群が、首相府オスマン文書館に移管され、整理が済んだものからデジタル画像の文書館の端末での閲覧、ファイルのコピーが可能になったことで、オスマン朝の宮廷に関する帳簿史料を研究材料に加えることができた。これらの一部はさっそく「オスマン文書セミナー」の講読テキストとして利用することができたが、今後もさらなる活用が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度から研究はおおむね順調に進展していると言えるので、今後もこれまでの推進方策を維持していきたい。 これまでと同様に東洋文庫における月に1回の定例研究会を継続し、ギヤース・アッディーン・アブー・イスハーク・ケルマーニーの『簿記術論説』の講読を進める。第2年度では、第3部「アワールジャ(awarja)とそれに関する事柄について」をできるだけ読み進め、本年度および次年度で読了することを目指しつつ、具体的な帳簿実例に関する知見を集積する。 なおギヤース・アッディーン・アブー・イスハーク・ケルマーニーの 『簿記術論説』のイランのゴムに所蔵されている1写本についてはまだ入手できていないので、これについても電子複写を入手したい。 イラン式簿記術の術語に関するマニュアルの作成についても、研究成果のウェブ公開に向けて引き続き準備を進めていく。 これまでの予備調査により、オスマン朝の帳簿史料がソフィアにある聖キリル・メトディイ・ブルガリア国立図書館に所蔵されていることが判明したので、次年度以降は中東に限らず、ブルガリアにおいても簿記術に関する文書・写本調査のための派遣を積極的に行ないたい。 第2年度の「オスマン文書セミナー」は2019年1月12、13日に開催し、オスマン朝の財務行政史を専門とするアンカラ大学言語・地理・歴史学部研究員の清水保尚氏を招聘して講師に迎え、オスマン朝の財務関係の帳簿の講読を行う予定である。
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