2019 Fiscal Year Annual Research Report
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17H02398
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
高松 洋一 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (90376822)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
近藤 信彰 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (90274993)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | イスラーム史 / 簿記術 / 史料研究 / 中東 / オスマン朝 / サファヴィー朝 |
Outline of Annual Research Achievements |
定例研究会:前年度に引き続き、公益財団法人・東洋文庫においてほぼ毎月1回(1年間で計8回)の研究会を開催した。サファヴィー朝シャー・タフマースプ時代に著されたギヤース・アッディーン・アブー・イスハーク・ケルマーニーの『簿記術論説』の講読を行ない、第3部「アワールジャ帳簿(awarja)について」の第2種(naw')「委託管理者(arbab al-tahawil)について」中の「仲買人(simsar)の帳簿用例」からはじめ、第3部の種々の帳簿の実例を一応読了した。その後は帳簿の実例を一通り読了したことを踏まえ、もう一度第3部の冒頭に立ち戻って、以前の研究会で解読できなかった箇所の確認作業を進めた。 シンポジウムの開催:12月15日九州大学文学部九州史学会との共催により、2019年度九州史学会大会の<イスラム文明学部会>において「「イラン式簿記術」とスィヤークの世界」と題するシンポジウムを開催した。研究代表者、分担者、定例研究会の参加者3名、計5名による発表を行なった。各題目は以下の通り:「趣旨説明―イラン式簿記術とスィヤークの世界―」「史料としてのペルシア語簿記術指南書―13-14 世紀指南書に見るイルハン朝の宮廷財政」 「イラン式簿記術 ―サファヴィー朝期の応用例」「 財産目録・帳簿史料に見る家産の維持・存続―19 世紀後半におけるイラン有力者家族の実践」「 ペルシア語文化圏における普遍史の変貌と簿記術」。 若手研究者の育成:2020年1月11-12日にアジア・アフリカ言語文化研究所で「オスマン文書セミナー」を開催し、全国から大学院生、若手研究者を集め、オスマン朝下で作成されたワクフ関係文書・帳簿の実例の講読を行った。 海外派遣:写本・文書史料調査のため、研究代表者をイスタンブル、アンカラに、第9回欧州イラン学会での発表のため研究協力者の渡部良子をベルリンに派遣した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東洋文庫において定期的に開催している定例研究会は、以前の科研費課題「イスラーム圏におけるイラン式簿記術の成立と展開」の時期から数えて合計52回におよび、ギヤース・アッディーン・アブー・イスハーク・ケルマーニーの『簿記術論説』の写本講読は順調に進んでいる。2019年度中に、目標として定めた第3部「アワールジャ(awarja)とそれに関する事柄について」を一通り読了し、現在は未読箇所の再点検を行っている。近年はイランにおいてもこの分野の研究が盛んになり、競合する研究が現れつつあるものの、諸写本を校合している点で、当該研究は国際的に他の追随を許さないレベルにあると言える。『アジア・アフリカ言語文化研究』94号に刊行された序論の主要部分と第1部の仮校訂と日本語訳に引き続いて、残りの部分の校訂・訳注を発表に向け、次年度の研究を進めていきたい。 『簿記術論説』と比較対照すべき簿記術指南書の収集も進み、ペルシア語に基づくイラン式簿記術の術語に関するマニュアルの作成に向けて準備が整いつつある。 またイランの簿記システムとオスマン朝の簿記システムの比較対照も進展し、両者の相違が明らかになりつつある。 こうした成果は、2019年度九州史学会大会のシンポジウムにおいて報告され、多くの研究者、大学院生の注目を集め、活発な討議、意見交換が行われた。また2019年度の「オスマン文書セミナー」においてスィヤーカト書体を含むワクフ関係の財政文書の講読という形で反映することができ、若手研究者・大学院生の育成の面での還元も成就しつつある。 2019年度の最終版においては新型コロナウィルス感染症により、予定していた海外調査の派遣を行うことができなかったが、それを補ってあまりある研究の進捗があったと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
第3年度に入っても研究はおおむね順調に進展していると言えるので、今後もこれまでの推進方策を維持していきたい。 新型コロナウィルス感染症により、これまでと同様に対面のかたちで東洋文庫で研究会を続けることは困難になったが、Zoomによりオンライン上の定例研究会を月に1回のペースで開催する。ギヤース・アッディーン・アブー・イスハーク・ケルマーニーの『簿記術論説』の講読を継続していくが、2019年度においては第3部「アワールジャ (awarja)とそれに関する事柄について」を読了するという目標を昨年度中に達成できたため、未解読箇所の再検討とあわせ、さきに『アジア・アフリカ言語文化研究』においてペルシア語校訂テキストと日本語訳公刊を後回しにした序論部分の度量衡単位などに関する節の講読を行なう予定である。 上記の度量衡についての記述ももとにして、イラン式簿記術の術語に関するマニュアルの作成を進め、研究成果のウェブ公開に向けて引き続き準備していく。 『簿記術論説』のイランのゴムに所蔵されている1写本についてはまだ入手できていないの で、これについても電子複写を入手できるように引き続き努力したい。 新型コロナウィルス感染症の状況が改善されれば、昨年度予定されていながら中止せざるをえなかった海外での史料調査を実現したい。海外渡航が困難な状況が年度中続きそうな見込みの場合には、イスタンブルのスレイマニイェ図書館所蔵の写本史料の画像を電子データのかたちで郵送にて取り寄せることも検討する。 また昨年度に引き続いて、アジア・アフリカ言語文化研究所の共同利用・共同研究課題『イスラーム聖者廟の財産管理に関する史料学的研究:イラン・サファヴィー朝祖廟を事例として』との連携を進め、研究会の共同開催を行なう。
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