2017 Fiscal Year Annual Research Report
格差社会における総合的労働法政策―比較法研究を踏まえた日本型格差是正政策
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17H02458
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
荒木 尚志 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (60175966)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河野 奈月 明治学院大学, 法学部, 講師 (20632243)
神吉 知郁子 立教大学, 法学部, 准教授 (60608561)
土岐 将仁 岡山大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (60707496)
成田 史子 弘前大学, 人文社会科学部, 講師 (90634717)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 非正規雇用 / 格差是正 / 同一労働同一賃金 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、(1)正規雇用・非正規雇用の概念整理と、(2)諸外国における正規・非正規雇用間の格差の実態解明に関する比較法研究を中心に検討を行った。 (1)正規雇用・非正規雇用の概念整理については、正規(典型typical、標準standard)雇用と、非正規(非典型atypical、非標準non-standard)雇用と整理されるものについても、各国にほぼ共通して把握できる要素と、国によって異なる把握がなされている部分がみられた。そこで、各国における非正規雇用の概念を、「機能的な」視角から整理すべく検討を行った。 (2)諸外国における正規・非正規格差の実態解明については、まず、ドイツ・フランスにおいては、産業別協約によって職務についての賃率が企業横断的に設定されていること、そして、その協約が、組合員のみならず非組合員にも(拡張適用や協約を参照するという慣行によって)広く適用されているという実態がある。そのため、同じ職務を行う労働者については、当該労働者が正規雇用であれ、非正規雇用であれ、協約に定められた同じ賃率が適用される結果、基本給についての正規・非正規格差は基本的には生じないという状況にある。いわば、産別の団体交渉と産別協約というインフラが、基本給についての正規・非正規格差を防止している。 これに対して、イギリスでは産別協約によって企業横断的に職務給を設定するという実態はなく、基本給格差の是正は、転職行動という市場原理によって行われるという点で、アメリカと共通する状況が見られることが判った。 これらの検討も踏まえ、研究代表荒木は、2017年6月のLabor Law Research Network第3回会議(トロント)、同年8月の東大・ソウル大比較労働法セミナー(ソウル)、同年9月の国際労働法社会保障法学会欧州地域会議(プラハ)において、報告および意見交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本では、正規・非正規雇用が大きく区分されているために、非正規雇用の把握ないし概念が、その実態に引きずられて、特に社会学や経済学、人事管理論においては、法的性質は法規制と関連する問題と、それとは関係のない実態問題とが混在して論じられ、非正規雇用の概念に混乱が見られる。そのような問題意識から、非正規雇用が諸外国でどのように捉えられているのかの検討を行い、かなり共通に認識できる部分と、その把握が流動的な部分等について、検討が進んだと考えている。 また、平成29年度は、国外において、研究代表者が日本の非正規雇用に関する法律問題、法政策について3回の報告等を行う機会を持つことができ、諸外国の研究者と有益な意見交換を行うことができ、今後の本研究についても有益な示唆を得ることができた。 本研究を踏まえて、働き方改革として大きな注目を集めている同一労働同一賃金に関する法改正問題についても、かなりの数の講演・論文発表を行った。 これらのことから、研究は、概ね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、正規・非正規雇用の概念整理、諸外国の格差の実態とその要因解明の作業を継続しつつ、さらに、以下の検討を行うこととする。 (3)格差是正政策における集団的労使関係の役割の検討 (2)の作業により、集団的労使関係システムによって、格差が防止されている場面や、格差があっても、集団的労使で合意していれば正当事由があるとされる場面等が確認された。そこで、格差是正政策における集団的労使関係の役割の検討を諸外国について行う。 (4)多様な格差是正手法の吟味と格差正当化事由の検討 非正規雇用にも、パート労働、有期労働、派遣労働という非正規雇用形態それぞれの特質があるため、その格差是正策を考える際にもその相違を認識する必要がある。すなわち、パート労働者については、(フルタイムではなくパートタイムを選好しているが故に)正規化による処遇改善が機能しないため、パート労働のままでの処遇改善がより強く要請される。これに対して、有期契約労働者の場合、無期契約への転換という正規化施策が格差是正の重要な施策となりやすい。また、派遣の場合は派遣先の労働者との格差是正問題となると、使用者の異なる者との比較・是正となるため、特有の課題がある。このように、非正規雇用の多様性を踏まえて、望ましい施策について検討を深める。そして、EU法の議論も参考に、格差があっても、それが違法とならない正当化事由は何か、その場合に、非正規雇用の類型・特質がどう反映されることになるのか(あるいはならないのか)について検討を深める。 また、有期・無期の不合理な格差については、本年中に最高裁判決が下される予定であるので、新たな判例動向も分析する。また、働き方改革法案が成立すれば、その検討も行う。
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Research Products
(11 results)