2017 Fiscal Year Annual Research Report
Reconstruction of Tort Law in the Complexity of Social Relations and Risks
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17H02472
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
瀬川 信久 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), その他(招聘研究員) (10009847)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
橋本 佳幸 京都大学, 法学研究科, 教授 (00273425)
山口 斉昭 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (00318320)
後藤 巻則 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (20255045)
大塚 直 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (90143346)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 不法行為 / リスク / 間接的侵害 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度には8回、2018年度には11回の研究会を実施し、社会関係・リスクの複合化に伴う不法行為法の構造変化を具体的に把握することができた。各班について述べると次の通りである。 環境・生活基盤班では、原子力損害賠償、建設アスベスト訴訟を中心に、リスク訴訟、複数不法行為者の責任関係を考察し、また、現在進行中の多数の震災・原発事故訴訟における過失、権利侵害、違法性、国家賠償責任の法律論をリスクの観点から検討し、その成果を日本私法学会拡大ワークショップにおいて報告した。 取引・市場班では、取引における共同不法行為やプラットフォーム運営者の不法行為責任におけるリスクの構造的複合化を分析した。また、債権法改正や消費者契約法改正の分析を通して、契約法と損害賠償法の機能分担や構造変化を検討した。 生命・医療班では、医療の発展や不確実性がもたらす事故や事象、チーム医療や医薬品・医療機器の役割増大による複数者関与、医師患者関係の変化等を検討した。その中での医師患者関係や患者の意思や権利の尊重のあり方について、フェネル教授との共同研究を進め、障害者権利条約等の考慮等重要な視点を認識した。 理論・総括班では、以上の各分野の研究成果を基礎に、近時の不法行為法の変容につき幅広い比較法的検討を進めているブリュッゲマイアー教授と共同研究(「民事不法行為法の基本構造」)を実施し、社会関係の複合化にともなう不法行為法の歴史的変容につき全体的な知見を深めると同時に、わが国の不法行為法の構造上の諸特徴を認識した。以上のほか、特殊不法行為の構造変化から出発して、1990年代以後の不法行為法一般の動きを、間接関与を理由とする注意義務の拡大として整理した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度・30年度の研究活動による達成度について各班についてのべると次のとおりである。 環境・生活基盤班では、通常の研究会と私法学会拡大ワークショップのための震災関連訴訟の検討を通して、リスクの複合化および複数不法行為者の責任の関係につき具体的な法解釈論に結びつく考え方を提示した。取引・市場班では、取引における共同不法行為、ユーザー間取引に関するサービス運営事業者の責任、ソーシャルメディア事業者の違法情報媒介責任、インターネット取引における約款、広告などの考え方につき、一定の方向性を得ることができた。他方で、近時の債権法改正と消費者契約法の改正を踏まえた民法と消費者法の関係を検討し、契約法と損害賠償法の機能分担や構造変化について具体的な知見を得つつある。生命・医療班では、医療技術の進展の他、医療やケアにかかわる当事者の増大、障害者や患者など非対称関係の中で生じる事故や被害など新たな切り口からの研究を進めている。理論・総括班では、社会関係の複合化に伴う不法行為法の構造変容については相当程度の整理を得た。また、リスクの複合化については、アスベスト被害、原発事故被害については調査を進め問題点を絞り込んだ。 しかし、アスベスト被害、原発事故被害については多数の訴訟が進行していること、消費者・投資者被害については、ロボット・アドバイザーなどの新しい問題が生じていること、医療事故については医療水準の高度化、遺伝子操作に伴う医療倫理の問題があることから、今日的なリスクの性格を見渡す視点が必要だと考えている。また、上記の研究の進展によって、不法行為法理論の再構築のためにはヘイトスピーチ等新たな名誉毀損の人格的利益侵害など新たな調査研究が必要であることも明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)これまでの研究成果を基礎に具体的な法解釈論を構築する。例えば、複合的社会関係に応じた共同不法行為論として、アスベスト事件など市場ネットワークを介した多数排出者の関連共同性、有価証券虚偽記載、プラットフォーム、電子マネーサービスが絡む取引、チーム医療、高度医療での共同不法行為を検討する。 (2)今日的なリスクの特殊な性格と問題になる社会関係を、各問題に即してさらに調査・検討し、諸領域におけるリスクを整理し、法解釈論と立法論における課題を整理する。環境・生活基盤の分野では、リスクが小さいかまたは不確実だが損害が重大な場合の過失の問題、科学的不確実性・情報欠如がある場合の過失・違法性の判斷とハンドの定式との関係、因果関係の判斷における科学的エビデンスの要請、消費者・投資者被害の分野では、ロボット・アドバイザーやAIを利用した電子商取引における誤認識や操作ミス等の問題、ブロックチェーン技術を用いた価値移転の問題、生命・医療の分野では、新規治療法や(AIの導入を含む)医療技術の導入、健康産業への医療の拡大におけるリスク分配の問題、地域包括ケア等での医療と地域の広がりに伴う関係者の数や範囲(職業者のほかボランティアや住民等)の拡大によるリスクの拡大の問題などである。以上のほか、コミュニケーションにおけるリスク(インターネット、口コミ等の社会関係における人格権侵害、差別、ヘイトスピーチ)につき補充的な調査研究をすすめる。 (3)以上のいずれでも、民事不法行為法と民法以外の、法規制と指導価値の連携を考える。既に、環境・生活基盤の領域ではアスベスト規制、原発事故訴訟の検討において行政法・国賠法との関係を、取引・市場の領域では消費者法・商法・独占禁止法との関係を、生命・医療の領域では、社会保障法・行政法や自律的規制(ガイドライン等)との関係をしているが、刑事規制も含めてさらに検討する。
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