2017 Fiscal Year Annual Research Report
自由貿易と国内政治基盤:埋め込まれた自由主義の再検討
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17H02484
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
久米 郁男 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (30195523)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中井 遼 北九州市立大学, 法学部, 准教授 (10546328)
高橋 百合子 早稲田大学, 政治経済学術院, 准教授 (30432553)
曽我 謙悟 京都大学, 公共政策大学院, 教授 (60261947)
伊藤 武 専修大学, 法学部, 教授 (70302784)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 埋め込まれた自由主義 / 自由貿易 / 貿易政治 / サーベイ実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、第二次世界大戦後の国際的自由貿易体制を支えてきた国内政治システムの特徴とその変容を、計量分析、歴史事例分析、そしてサーベイ実験を体系的に組み合わせて解明することを目指している。平成29年度に行うことは、①「埋め込まれた自由主義」に関する関連研究の整理及び問題意識の共有、②クロスナショナルデータの整備及び加工作業、③ISSPサーベイデータの加工作業、④日伊墨バルト3国の各国の「埋め込まれた自由主義」体制成立に関する歴史分析であった。①を実施するために、7月に第1回研究会を持った。そこでのディスカッションを踏まえて、第2回研究会を10月に開催した。そこでは、久米が「埋め込まれた自由主義」についての研究発展と今後の課題について報告を行い、曽我がより広い文脈で貿易をめぐる政治過程について今までどのような研究が内外で行われてきたかの包括的なレビューを報告した。伊藤、高橋、中井からは、イタリア、メキシコ、バルト3国における自由貿易体制受け入れに関する政治過程の報告がなされた(④)。②と③に関するデータ作成は、海外研究協力者であるYu Jin Wooと久米が連携して作業にあたり、3月に開催された第3回研究会でその第一次分析の報告を久米が行った。第3回研究会では、この第1次分析結果の報告がなされ、伊墨バルト3国においてなされている自由貿易をめぐる政治論争の現状を踏まえてどのようなサーベイ実験を設計しうるかについて討論を行い、第2年度に向けて実験設計を各参加者が立案することとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要で記したように、初年度には3回にわたる実質的な研究会を持った。第1回の会議での問題関心の共有は予定通り行うことができ、それを踏まえて夏季休暇を利用して伊藤、高橋、中井は担当国の文献調査、分析を行い第2回研究会で報告を行った。曽我は、trade politics、trade policyをキーワードとして海外学術誌を包括的に検索しその内容を体系的にまとめた文献レビューを第2回研究会で行った。この国別の分析と文献レビューを組み合わせることで、第3回研究会でのサーベイ実験デザインに関する実質的な検討が可能となった。他方、久米と海外研究協力者のWooは、ISSPのデータ分析を協力して行い、自由貿易をめぐる人々の態度とそれ以外の政治・社会意識、さらにはデモグラフィックな特徴との関連について検討を行い、第1次分析結果を得た。ただ、この結果から明らかになったことは、自由貿易に対する支持態度と相関するそれ以外の変数の組み合わせパターンは先進国内においても予想以上に多様であり、それをどのように解釈するか、更に進んで貿易に関する態度を解明する適切なサーベイ実験デザインをどのように構築するかが今後の課題となっている。この点は、研究計画作成段階には予想していなかった点であり、今後のさらなる検討を必要としている。しかし、その様な多様性が発見できたこと自体は、本研究の目的すなわち自由貿易への政治的支持態度形成のメカニズムの解明に重要な手がかりを与えるものでもあると考えている。その意味において、現段階までの研究進捗状況はおおむね順調に進展していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方策は、大別二つからなる。第1に、ISSPデータを利用して、自由貿易への支持態度を従属変数とした計量分析を行い、「埋め込まれた自由主義」仮説から導かれる「観察可能な含意」を検証する。その上で、ISSPデータとクロスナショナルデータをリンクさせて、更に上記仮説の検証を行う。そこの分析において「生産者利益」補償と異なる自由貿易支持メカニズムの析出と仮説の提示が目指される。この部分の分析は、曽我・久米・Wooが先導して行うが、分析の特性を考慮し適宜、計量経済学、国際経済学の専門家を招いての研究会を開催する。第2に、比較歴史分析と計量分析から導かれた自由貿易支持メカニズムに関する仮説を検証するために、サーベイ実験を設計し、日伊墨ラトビア4カ国で実施する。この調査は、インターネット調査会社を利用して、4カ国において同じ質問文を利用した比較可能な調査デザインを設計し、実施する。このようなインターネットを利用したサーベイ調査は、調査会社が持っている登録回答者を用いて行うため、サンプルのセレクションバイアスの問題がある。しかし、他方でこの手法は従来の世論調査よりも費用的な面で圧倒的に優れているだけでなく、登録回答者の個人属性を豊富に利用できるというメリットがある。以上の二本柱の研究を総合的に検討し、「埋め込まれた自由主義」仮説の検証を行い、それを手がかりとして貿易政治についての新しい理解を提示する。さらに本プロジェクトの成果を広く発信するために最終年度に公開研究会を持つ。また、本研究の成果については、日本政治学会、国際政治学会など国内学会やアメリカ政治学会、世界政治学会、ECPRなどの国際学会での発表を予定しており、そこでのフィードバックを踏まえて国内での出版及び国際的学術誌への論文発表に努める。
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Research Products
(5 results)