2018 Fiscal Year Annual Research Report
Labor Economic Analysis for Crisis Responses
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17H02535
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
玄田 有史 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (90245366)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 危機対応 / 異常と変化への対応 / 社会資本 / 就職氷河期 / 外国人労働 / 移民問題 / 東日本大震災 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度も、経済危機、自然災害、家族の就業困難など、多様な危機に対する望ましい対応策について、労働経済学の観点から多角的に実証分析を行った。 なかでも中高年に差し掛かったかつての就職氷河期世代が長く無業および不安定雇用にある問題の実態と対策の検討を重点的に行った。パネル調査を用いた分析を通じ、2000年代初頭に無業であった氷河期世代が2010年代でもその多くが無業状態にあることなどを発見した。無業もしくは非正規の40代の氷河期世代と70代で引退した親世代と同一世帯内で困窮生活を強いられている「7040問題」が深刻な家族の危機となっていることを、メディアへの寄稿などを通じて広く警鐘を鳴らした。就職氷河期世代の現状と対策については、2019年4月の経済財政諮問会議でも取り上げるなど、政策的な検討が開始されており、本研究はその一つの契機となった可能性がある。 また岩手県釜石市を中心に東日本大震災の被災地での総合調査を複数回実施した。企業、労働者、学校関係者などにヒアリング調査を重ねて実施した他、生活や仕事に関するトラブルと対処の状況に関する住民アンケート調査なども実施した。その成果は、2019年度に学術書籍として刊行することが確定している。 さらに新しく取り組んだ課題として、本格的な導入が日本でも開始された外国人労働者及び移民の受け入れが生み出す新たな危機の可能性についても検証を行った。具体的には、労働法に精通しない外国人労働者が拡大することで雇用契約不明者が増加による経済厚生低下の問題の他、移民の流入が子どもの学校教育にもたらす影響などについて実証分析を行った。 その他、東日本大震災の発生時に企業間サプライチェーンの寸断が労働者に及ぼした影響等、自然災害が労働条件に及ぼす影響の経路とその度合いについて分析を行った。その結果、複数の査読を含む論文が学術雑誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上記の研究実績の概要は、当初の研究計画をすべて含む他、外国人労働や移民の問題についても研究範囲を広げるなど、当初の計画以上に進展している。研究計画が順調に進展している背景には、昨年までと同様、岩手県釜石市の全面的な協力が得られていることは何よりも大きい。今年度は総合調査に加えて、これまでの研究成果についての中間報告会を行い、市民、市役所関係者、地元大学の研究者などから広く有益なコメントや助言を得られたことで、研究内容をより深く掘り下げることも可能となった。 就職氷河期世代の問題についても、昨年度までに総務省統計局「社会生活基本調査」を用いて、日常的に家族としか交流がないか、ずっと一人でいる無業者である「孤立無業者」に関する特別集計による分析を行っていたことで、エビデンスに基づく実態の説明と政策の提案を行うことが可能となった。その内容は『文藝春秋』(2019年1月号)や『読売新聞』(2019年2月18、2月25日、3月11日、3月18日朝刊)に掲載されるなど、研究成果を広く社会に還元するという計画の実現につながった。 また自然災害に対する危機対応に関する実証分析の結果を取りまとめた書籍を2018年度中に計画通り刊行した。そこでは「異常や変化への対応」として臨機応変な対応を意味する「ブリコラージュ」という概念との関係性などについて考察を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで蓄積してきた研究内容に、2019年度に追加的な調査とその分析を加えることで、2019年度中に複数の書籍を刊行する。そこでは25組の研究論文が含まれる予定であり、現在、精力的に研究・執筆活動がなされている。その内容は『危機対応の社会科学』として、研究代表者を編者の一人として、東京大学出版会からの刊行が予定されている。 また上記の学術書籍とは別に、岩手県釜石市での調査を取りまとめた書籍を『地域の危機対応学』として、同じく東京大学出版会から刊行が予定されている。その書籍についても研究代表者が編者の一人となることが決まっており、連携研究者の多くが執筆予定となっている。 さらに研究計画でも述べたとおり、研究成果のうち、特に海外発信が有意義と評価できる内容を厳選し、日本語、英語、中国語、韓国語など、多言語書籍として世界に情報発信を進める(但し、刊行は2020年度以降)。 あわせて研究成果は、書籍として刊行した後、メディアへの寄稿、市民向けの講座などを通じて、将来の危機発生に備えた労働面からの具体的な対応策の提案として社会に広く還元していく。
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Research Products
(21 results)
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[Book] 危機対応学2018
Author(s)
東大社研、玄田 有史、有田 伸
Total Pages
292
Publisher
勁草書房
ISBN
4326654163
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