2017 Fiscal Year Annual Research Report
日本銀行の資産買入およびマイナス金利政策が証券市場に与える影響に関する研究
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17H02546
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
太田 亘 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (20293681)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大西 匡光 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (10160566)
大屋 幸輔 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (20233281)
岩壷 健太郎 神戸大学, 経済学研究科, 教授 (90372466)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | マーケット・マイクロストラクチャー |
Outline of Annual Research Achievements |
証券市場において、大口投資家は流動性および価格の情報効率性に大きな影響を与える可能性があり、その活動を分析することは、より望ましい証券市場のための規制や政策を考えるにあたり、また様々な投資家の発注戦略を考えるにあたり、重要である。本研究では、大口投資家として日本銀行を想定し、日本銀行のETF/REIT/国債等の購入が、証券市場の流動性および価格の情報効率性にどのような影響を与えているかを明らかにすることを目標としているが、REITおよび社債についていくつかの研究結果が得られた。特にREITについて、日本銀行の行動に他の市場参加者が反応すると考えられるが、その反応はCollin-Dufresne and Fos (2016, Econometrica)の理論と整合的である可能性のあることがわかった。彼らの理論は、大口投資家の発注量が変動するとき、情報投資家は、大口投資家が発注するときに発注するとともに、将来大口投資家が発注するまで待つオプションを活かしながら発注する、ということを示している。本研究では、流動性指標および価格の情報効率性指標を分析することにより、日本銀行のREIT購入の前後で、情報投資家が理論と整合的な方向で発注行動を調整している、それに伴い価格発見のタイミングが変化している、ただし価格の情報効率性の低下は見られない、という実証結果が得られた。Collin-Dufresne and Fos (2016)の理論について、情報投資家の行動に関する実証研究はあるものの、大口投資家の影響に関する実証研究はまだなく、この点で新しい知見が得られたといえる。但し、日本銀行のREIT購入銘柄の推測や他の市場での変化などについて、頑健性のチェックが今後の課題として残されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
データベースの構築および流動性指標・価格の情報効率性指標の作成・評価を行なった。証券取引所における日中の取引データであるティックデータは、近年売買の小口化・高頻度化により容量が飛躍的に増大しているが、高性能計算機・大容量ハードディスクを用いるとともに、プログラムを工夫することにより、予定通りの進度でデータベースの構築を行なった。それを用い流動性指標および価格の情報効率性指標を作成しているが、基本的な指標の計算は終了、算出に時間のかかる指標については計算の続行をしているところであり、予定通りに進んでいる。また算出が完了した指標を用いて分析を開始し、特にREITおよび社債については研究成果が得られ、2018年3月2日にワークショップ「証券市場の諸問題」を共催し、「証券市場における大口投資家と流動性: 日本銀行REIT購入のケース」および「Term structure of credit spreads under unconventional monetary policies in Japan」として報告した。株式についてはバリアンス・リスクプレミアムおよびボラティリティ・スプレッドの算出および予測力に関する検証を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
構築したデータベースを拡充しつつ活用し、個別市場について具体的な分析を推進する予定である。特に、本年度は流動性の変化は流動性の低い銘柄でより大きく現れる可能性があるため、流動性の低い東証2部、社債等に注目し、日本銀行購入の影響を明らかにすることを目標とする。分析上の問題の一つは、日本銀行購入の市場に対する影響を明らかにするには、日本銀行が購入しなかった日と比べる必要があるところ、日本銀行は市場価格が下落した日にETF/REITを購入し、しかも2010年末から継続して購入を行なっているため、市場価格が下落したが日本銀行は非購入という観測数が非常に限られ、日本銀行の影響と市場価格下落の影響を区別することが困難な点にある。この問題に対して、本年の研究では、ETF購入に関し、日本銀行の購入が行われていない東証2部等に上場されている銘柄を比較対象として分析を行う。また、日本銀行の社債購入について、マイナス金利導入等金融政策の影響を十分に考慮しながら、流動性の高い国債と比べてどのような相違があるかについて検討する。それらについての分析結果が得られ、状況を整理した後に、流動性が高く日本銀行資産購入の影響の検出がより難しいと考えられるETF/国債/国債先物に分析対象を広げる予定である。
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Research Products
(14 results)