2018 Fiscal Year Annual Research Report
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17H02581
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
徳賀 芳弘 京都大学, 経営管理研究部, 教授 (70163970)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | のれん / M&A / オーガニック・グロウス / 規則的償却 / 減損 / 会計基準 / 国際財務報告基 / 経団連 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は「のれん」の「規則的償却+減損」vs.「非償却減損」を巡る長期にわたる国際的な論争(以後,「償却 vs.減損論争」と略する)の意味を多面的に分析し,論争の解決への貢献を目指すものである。意見の対立を引き起こしているのは、(1)のれんの現状の相違(のれんと考えられているものの法域等による相違)、及びのれんに関する事実認識の相違(例えば、のれんの減価についての認識)、並びに(2)のれんの会計処理を巡る規範の相違である。 意見の対立が何に起因しているかを明らかにするために。1年目(2017年度)には、主に上記の(2)に関係した、規範的な論争(のれんの償却を支持する論理と否定する論理)について整理を行った。また、2年目は、(1)(2)に関連して、のれんの償却に対して強い反対を表明しているフランスの会計基準設定主体、公認会計士協会、及び代表的企業に訪問面接調査を行った。 しかし、日本における先行調査では、日本の作成者・利用者が(1)(2)に関して、どのような状況であるのかが必ずしも明確ではないことに気づき、2年目の後半から日本の作成者と利用者に対する質問票調査を計画・実施した。その成果は、京都大学経済学研究科・ディスカッション・ペーパー(J-18-004)として公表している。そこでは、本研究開始時点でわれわれが提示していた、日本企業ののれんとのれんの会計処理についての姿勢に関する仮説(①経団連加盟企業は、オーガニック・グロースが支配的なので、規則的償却を支持する(経団連非加盟企業はそれを支持する割合が低い)、及び②製造企業は非製造企業に比べて、投資の回収という側面が明確なので、規則的償却を支持する(非製造業はそれを支持する割合が低い)という仮説」は棄却されることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)先行研究のレビュー のれんの償却 vs. 減損についての理論的先行研究と実証研究を整理,深堀りし,本研究の位置づけと学術的・実践的貢献について以下のように検討した。①日本基準,米国基準,及びIFRSにおける基準の設定趣旨についての調査:3つの会計基準の討議資料(基準設定前の議論)まで遡って,基準設定の趣旨が何であったかを調査し,その経済的帰結に関する実証研究との突き合わせを行った。②のれんの規則的償却と減損の理論的先行研究の調査:a.概念上の対立(ストックの価値重視とフローの期間配分重視)の整理, b.両者の比較をアナリティカルに展開している研究の調査。こうした,のれんの先行理論研究のサーベイ・整理を行い,残された課題を洗い出した上で,本研究の理論的な貢献(位置づけ)をさらに明確化した。③国内外における償却と減損の比較優位についての実証研究のサーベイと日本の経済的・制度的・政治的特殊性と会計基準との関係の調査を行った。 (2)意見の対立の確認 国際的な意見の対立点とその理由を明確化するために、①フランスにおける訪問面接調査(エリートインタビュー)を行った。②日本において、経団連加盟企業、経団連非加盟企業(東証上場)、及び証券アナリストに対する質問票調査を行った。その成果は、京都大学経済学研究科・ディスカッション・ペーパー(J-18-004)として公表している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究に基づいて、実証研究を進めるための以下のような複数の仮説を提示して調査を行う。(1)は、IFRS任意適用(選択可能)の日本ならではの調査である。(3)及び(4)は、日本企業の間、及びアナリストの間での意見の相違の理由を明確にするための調査であり、(2)は、調査結果が、国際的な普遍性をもったものとなる。 (1)採用している会計基準相違を考慮した分析(作成者サイド):作成者の採用している会計基準の違いが「規則的償却+減損vs減損処理のみ」に関する意見の違いに影響を与えているかどうかを分析する。 (2)のれん残高の多寡/のれん償却費の利益への影響をふまえた分析(作成者サイド): のれん残高の規模(また純資産額に対する割合など)が企業の回答結果にどのような影響を与えているかを分析する。また、これまで、のれんの減損損失を計上したことがあるかどうかが回答結果に影響を及ぼしているかも分析する。さらに,(日本基準採用企業についての分析となるが)のれんの償却費が会計利益に対してどれほどの割合を占めているか(償却負担の大きさ)が回答結果に影響を及ぼしているかについての分析も行う。 (3)アナリストがカバーしている業種をふまえた分析(利用者サイド):アナリストが(形式的な)比較可能性を重視するとすれば,カバーしている業種においてIFRS採用企業がどの程度含まれているかといった違いが、アナリストの回答に影響を与えている可能性も考えられる。そこで,利用者については回答者がカバーしている業種を考慮した分析を実施する。 (4)回答間の関係(作成者・利用者両方):昨年度の分析では作成者・利用者ともに回答結果間の関係については分析が行えていなかった。今年度は作成者・利用者それぞれについて回答間の関係についてクロス分析を行う。
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Research Products
(14 results)