2018 Fiscal Year Annual Research Report
The mechanism involved in the long-term psychological effect of radiation exposure caused by Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant accident.
Project/Area Number |
17H02622
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
筒井 雄二 福島大学, 共生システム理工学類, 教授 (70286243)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
氏家 達夫 放送大学, 愛知学習センター, 特任教授 (00168684)
三浦 麻子 関西学院大学, 文学部, 教授 (30273569)
高谷 理恵子 福島大学, 人間発達文化学類, 教授 (90322007)
元吉 忠寛 関西大学, 社会安全学部, 教授 (70362217)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 東日本大震災 / 原子力災害 / 心理的影響 / ソーシャルメディア / 情報 / 内容分析 / クライシスコミュニケーション / 行動免疫システム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究プロジェクトは「情報」をキーワードとして,原発災害の心理学的影響が長期化するメカニズムを解明することを目的とする。この目的を達成するために行われた4つの研究の概要を以下に示す。 研究1)事故直後の情報提供戦略は事実を伝えることと安全性の強調だったが,それらは効果的でなく情報や対策への不信を高めた。情報提供する専門家は,市民の論理や合理性の理解を深めることが重要だと考えられる。また,主に東北地方で行われた放射能に関するリスクコミュニケーションの資料から主要な用語を抽出し,それらの用語がどの程度新聞記事で用いられてきたかを分析した。 研究2)ツイッター利用者に限定しない,新たな大きなサンプルを対象とする調査として,Web調査会社のモニタを対象として,日本国内の3地域(被災地域,首都圏,京阪神)の居住者に限定して,2018年11月下旬に調査を実施した.前年度実施した項目に加え,震災当時と現在のソーシャルメディア利用状況を尋ねるWeb調査を実施した。 研究3)放射線に対する危険知覚のレベルと個体特性としての感染嫌悪傾向の関係を調べた。福島県内で子どもと暮らす母親と東京都内で子どもと暮らす母親を対象に29年度に実施した調査結果の分析を行った。その結果,原発災害に関連すると見られる心理的影響は放射線に対する危険知覚と密接に関わる一方で,危険知覚は個人の感染脆弱性のレベルに影響を受けていることがわかった。 研究4)東日本大震災後、福島第一原発事故が保護者心に与える影響を調査分析してきた。放射線については不安やストレスに感じる程度は個人差が大きいことが分かり、情報に対する態度が異なることが影響するのではないかと考えられた。そこで情報リテラシーと保護者ストレスにおける放射能危険知覚の媒介効果を検討したところ,情報リテラシーが放射能危険知覚を介して保護者ストレスを下げることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究1)インターネット上で公開されていた2011年夏頃から約2年間にリスクコミュニケーションで使用されたパワーポイントや配布資料を収集した。一つ一つの資料の内容が多く,全体では膨大な量となるため内容の分析に時間がかかっている。大まかにキーワード,主要概念や特徴などを整理したが,詳細な検討には至っていない。 研究2)調査データが示す傾向は,調査1とほぼ類似しており,原発事故や放射線に関する不安は低下しているが「高止まり」の傾向があり,居住地域による差は見られなかった。震災の心理的インパクトは,被災地域で他よりも高いが,いずれも大きく低下していた。当初は前年度に取得を予定していたがそれが叶わなかったパネルデータの第1波データを得ることができた。 研究3)原発事故の被災者にみられる精神影響の長期化を進化論的視点から理解するため,行動免疫システムと精神影響との関係を調べてきた。現時点で,個人特性としての感染脆弱性が放射線への危険知覚を介して精神影響を引き起こす可能性が考えられたが,更に研究を追加し仮説の確からしさを追及したい。 研究4)東日本大震災後,福島第一原発事故が幼児・児童の保護者心に与える影響を調査分析してきた結果,避難経験の有無により保護者のストレスの高さは異なるが,情報リテラシーが放射能の危険知覚を介して保護者のストレスを低減させるという働きは共通してみられる現象であると考えられた。保護者が抱えるストレスを低減させる保護要因が明らかになったのは,大きな成果として捉えている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究1)当初は,発信された情報が住民にどのような感情反応を引き起こしたのかを検証する予定であったが,当時のSNSへの投稿データが十分に確保できないことが判明したため,情報の発信と住民の感情的な反応とを対応づけることが難しくなった。このため,発信された情報の質的な分析と,そのような情報が新聞でいつどのように報道されていたのかについてより詳細に分析する方針に変更した。 研究2)当初は同一対象で実施することを予定していたツイートログの時系列変化の分析とパネルデータの分析は,別対象で実施する。来年度は,ツイートログデータは計量テキスト分析により不安やストレス関連語との共起を含めて時系列変化を検討する。Web調査は2019年9月に第2波を実施し,時系列比較を行う。両者に基づき,ソーシャルメディアを活用した効果的なリスクコミュニケーションの可能性を考察する. 研究3)29-30年度の研究から感染脆弱性に代表される行動免疫システムと原発災害の心理的影響との関連性が推察された。本仮説の確からしさを追及する一つの方策として,チェルノブイリ原発事故による心理的影響と行動免疫システムとの関係について調査する必要があると考えられた。 研究4)個人によって放射能関連の情報に対する態度が異なることが,災害後の行動選択に影響を与えるとともに,保護者のストレスの長期化にも影響する可能性が考えられる。そこで,福島原発事故後の福島で子どもを抱える保護者がどのように情報を取得し,どのような情報によって自らの行動を選択していったのかを探索的に調査する。災害関連情報が市民、県民に与えた影響について検討していきたい。
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Research Products
(5 results)