2018 Fiscal Year Annual Research Report
情動をうみだす脳と身体の協働システムの比較認知神経科学研究
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17H02653
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
伊澤 栄一 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (10433731)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
茂木 一孝 麻布大学, 獣医学部, 准教授 (50347308)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 情動 / 自律神経 / 心拍 / 優劣関係 / カラス / 鳥類 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度の計画項目の第1点は、心拍の薬理阻害による情動表出への影響の検証であった。まず、前年度から継続検討していた心拍と行動との関係について、優位個体との対面によって劣位個体の心拍が低下することを発見した。過去の社会性動物では報告のない新発見であり、優劣社会交渉場面での情動表出に「副交感神経優位の自律神経の関与」「迷走神経を介した嫌悪信号基盤」という新たな可能性が浮上した。そこでまず、末梢薬理阻害実験では、副交感神経阻害のためにアセチルコリン受容体拮抗薬のアトロピンを用いた。優位個体と対面した劣位個体にアトロピンを末梢投与することで心拍低下を阻害した結果、優位個体との距離が延びる傾向が見いだされつつある。 第2の計画項目は、心拍の薬理阻害による脳神経活動の影響評価であった。まずハトを用い、迷走神経由来の嫌悪反応に随伴する脳の神経活動を組織学的に検証した。ハトの腹腔に塩化リチウムを注入して化学刺激を与え、それに伴う心拍低下を確認し、脳の組織切片における神経活性の標識タンパク(最初期遺伝子c-fos)の発現領域を探索した。その結果、大脳内受容感覚領域と考えられてきた領域の一部に特異的な活性が見いだされた。 さらに,翌年度の実施項目の予備実験として、優劣対面にともなう血中コルチコステロンの計測系の立ち上げを行った。対面後のいずれの時点での採血が当該計測に適しているか決定するために、対面直後から複数時点の採血サンプルをもとに濃度計測を行った。対面後10分までの採血であれば、対面に伴うストレスを反映していることを確認した。 加えて、オス3個体同時交渉課題による多個体のダイナミックな距離調整を検証した。1位オスがいる条件では、2個体交渉では生じない、下位オス同士の接近が生じた。これは、個体間距離が、2者間の関係だけで説明できない重み付けた行動選択を行っていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度見出した優位個体と対面した劣位個体の心拍低下の再現性を担保することができた。この発見は、優位個体に対する劣位個体の身体反応が副交感神経の関与によって、特に腸管神経由来の“嫌悪”を基盤としたコミュニケーションである可能性を強く示唆する全く新しい、当初の予想を上回る発見が得られた。これを契機に、ハトを用いた迷走神経刺激と脳活動の連関にも迫ることができたことも、当初の予想を上回る成果といえる。 前年度遅れが生じていた多個体同時交渉における距離調節メカニズムの検討も、順調に進み、一部データ追加を要するものの、当初予定にほぼ近づいた。 申請書に仮説的に描いた鳥類における脳と身体の協同システムの具体的な経路が見えつつあり、2個体間交渉を3個体間交渉へと拡張に成功している点でも予想以上の成果をあげている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までの研究によって、優位個体との対面に伴って劣位個体に生じる情動反応の神経基盤が、迷走神経を介した腸管由来の嫌悪信号を手がかりとし、副交感神経優位の自律神経機能と脳巣外套中間部との身体‐脳システムであるという具体的な仮説が見えてきた。この仮説をもとに、当初計画項目にある脳活動計測と末梢神経阻害・HPA軸阻害を組み合わせた検証を行うことで、当初目標を超える大きな発見が得らえると期待される。2個体交渉から3個体交渉に拡張された場面において、どのような重み付け行動選択がなされているのかをさらに精査し、神経システムと接続を試みる。
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Research Products
(16 results)