2018 Fiscal Year Annual Research Report
転換期における民衆的教育思想の生成に関する実証的研究
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17H02659
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
宮崎 隆志 北海道大学, 教育学研究院, 教授 (10190761)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
向谷地 生良 北海道医療大学, 看護福祉学部, 教授 (00364266)
大高 研道 明治大学, 政治経済学部, 専任教授 (00364323)
照本 祥敬 中京大学, 国際教養学部, 教授 (10227530)
小栗 有子 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 准教授 (10381138)
辻 智子 北海道大学, 教育学研究院, 准教授 (20609375)
岡 幸江 九州大学, 人間環境学研究院, 准教授 (50294856)
荻原 克男 北海学園大学, 経済学部, 教授 (70242469)
宋 美蘭 北海道大学, 教育学研究院, 非常勤研究員 (70528314)
内田 純一 高知大学, 教育研究部総合科学系地域協働教育学部門, 教授 (80380301)
白水 浩信 北海道大学, 教育学研究院, 准教授 (90322198)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 民衆思想 / 生命 / アニマシオン / 相互扶助 / 相互自助 / 暮らし / 平等思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.民衆の暮らしの再生産の構造をM.ド・セルトーのの日常性論を参照しながら整理し、安丸良夫の民衆思想史を日常性の再生産に関わる学習論の視点から読み込む可能性を示した。さらに、エンゲストロームの学習論を参照しながら、再生産的学習から拡張的学習に移行する条件としてのダブル・バインドを民衆思想の展開過程に読み取り、その局面での意識変化が生命や自然などの根源的地平にまで及ぶことを主張した。このような地平から再構想された社会として地域社会を位置づけることができるが、それが地域社会教育の学習論の中心に据えられるべきことを主張した。宮崎隆志「暮らしの思想の生成論理」、日本社会教育学会第65回大会プロジェクト研究(台風のため2018年12月22日に振り替え発表)
2.生命の躍動としてのアニマシオンが、暮らしづくりの支援実践における価値として抽出できることを主張した。Well-beingの内実をそのように理解すれば、それはSocial Pedagogyにおける教育的価値となりえることを主張した。宮崎隆志「暮らしづくりにおける価値と意義」、松田武雄編著『社会教育と福祉と地域づくり』大学教育出版、2019年3月
3.アートによる非日常空間の創出の意義をダブルバインド局面におけるツールとしての世界観創出の契機として位置付けられることを、釜ヶ崎芸術大学を事例に論じた。民衆思想の再生産と拡張に関わる祝祭空間の意義に関する基礎研究として位置づく。宮崎隆志「アートによる日常性批判の可能性」石黒広昭編著『街に出る劇場』新曜社、2018年
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は以下の3つの主要調査を実施した。第一は、高知県西土佐村において旧満州への分村経験を継承する活動に対する取材であり、第二は、南医療生協の役員の個人史に関するヒヤリング調査であり、第三は、旧沢内村(および湯田町)における生命尊重行政の継承に関する調査である。これらを通じて以下の諸点が確認された。 第一に、西土佐村と旧沢内村では、戦前期における加害と被害の意識化とその集団的記憶としての統合が実践的な課題となっていた。西土佐村の事例については補足調査が必要な段階であるが、両者ともに健康、さらには生命を守る地域づくり実践の展開の中でそれが図られた。第二に、南医療生協では、被災と公害被害の経験が出発点になり、生命という価値の意識化がなされたが、それは現代の実践経験の中に見出された相互扶助や自己実現という価値と結び付けられて理解されていた。第三に、世代を超えて思想・価値が継承されるのは、言葉による直接的伝承以上に、実践を通した価値意識の再生産がなされているからであった。その上で個々のミクロな実践に潜む価値を抽出し共有するための独自の言葉を産出する学習能力が問われる。第四に、相互扶助思想が生成するためには、、現実に存在する種々の差異を捨象することができる認識枠組みを備えることが必要であるが、これらの事例による限り、生命・自然存在としての音源的平等性がそれにあたる。この点は、安藤昌益や二宮尊徳、あるいは貝原益軒らの思想にも通じると思われ、その確認が課題となっている。第五に、生命・自然存在についての理解は、活動する生命に価値を見出すアニマシオン概念として展開可能である。南医療生協の実践では、この価値を保障する装置として協働が理解されていた。第六に、分断社会におけるSocial Pedagogyの意義を検討し、民衆思想の拡張論として展開するための課題を検討した(国際シンポジウム)。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の3つの実践事例を中心に据えて、他の地域の取り組みを位置づける座標軸を整理したい。そのために、第一に、民衆思想の地下水脈としての協同思想の構造について、歴史研究も視野に入れながら整理し、それとの対比を行いつつ、現代の実践の中で再生産されている相互扶助思想の特質を把握する。 第二に、上記の3事例の相互比較を行うためのシンポジウムを2020年度に予定しており、それに向けた事前調整を今年度中に行う。市場的・競争的環境において生ずる格差を括弧に入れ、相互の平等性を承認するための実践的な論理が生成してくる過程の共通性を浮き彫りにしたい。 第三に、暮らしづくりの実践の中で生成した生命尊重、アニマシオン、平等という価値を実現するための学習組織化の論理を明らかにすることが、個別事例調査の課題となる。旧沢内村調査での調査を8月に予定している。西土佐村調査は、高知大学・内田氏を主担として実施する。 第四に、これらの成果を踏まえて、日本社会教育学会(9月)において中間発表を行う。 第五に、南医療生協調査を12月に実施し、以上の結果を踏まえた総括研究会を2020年2月に開催し、年度版報告書をまとめる。
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Research Products
(4 results)