2018 Fiscal Year Annual Research Report
Development of near-field Raman microscope utilizing fluctuation
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17H02725
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
齊藤 結花 学習院大学, 理学部, 教授 (90373307)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐甲 徳栄 日本大学, 理工学部, 准教授 (60361565)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 近接場光学 / ラマン分光 / ゆらぎ / シングルパルス / 機械学習 / バルクヘテロジャンクション太陽電池 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)機械学習によるSERSスペクトルの分類:機械学習を採用し、よりSNの高い積算SERSスペクトルを得ることに成功した。スペクトル分類には、高密度部分を見つけ出すアルゴリズムであるDBSCAN(密度に基づいたノイズあり空間クラスタリング)を用いた。各スペクトル内の最大強度を持つ点のラマンシフトと強度を抽出した2次元データを作成し、これをDBSCANでパラメータを調整しつつ高密度領域を複数探索し、確認された高密度部分及びその上方(最大強度が最頻値より高い)のデータ点の集合について積算スペクトルを取得した。単純な10000スペクトルの積算では見られなかった振動構造が見られた。 (2)近接場光学顕微鏡によるバルクヘテロジャンクション太陽電池材料の評価:有機エレクトロニクスの技術分野の一つに、有機薄膜太陽電池が存在する。有機薄膜太陽電池では光を吸収し電気に変換する過程は全て膜内で行われるため膜構造の超高空間分解測定は有用である。本研究の測定対象としてP3HT/PCBM混合薄膜を選択し、近接場光学顕微鏡によってラマンスペクトルを取得した。1450 cm-1付近の強いピークはP3HTのチオフェンリングのC=C伸縮振動由来のピークである。励起波長488 nm励起はP3HTの吸収帯にあたるので今回の研究では共鳴ラマン散乱によってP3HTのみを選択的に観測した。P3HT1438 cm-1と1455 cm-1ピークの強度比は、試料の結晶状態(Icr)とアモルファス(Iam)状態をそれぞれ表しているので、スペクトルから試料の構造を予測した。非近接場光と近接場光によるIcr/Iam比を計算すると場所によって両者に異なる値が得られ、顕微ラマン分光の~250 nmという空間分解能では混合物でしかない領域でも、近接場光学顕微鏡を用いれば結晶のドメインが存在している様子を捉えることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)本研究を開始したときの最初の計画では、大量のスペクトルを取得して強度による選別を行うことでスペクトルのSNを改善することを計画していた。しかし、研究室に新たなメンバーを加え、機械学習によるより精密なデータ解析方法を現在開発しつつある。成果で述べたとおり、スペクトル分類として高密度部分を見つけ出すアルゴリズムであるDBSCAN(密度に基づいたノイズあり空間クラスタリング)を用いることにより、単純な強度による分類の他に、類似した信号から情報を抽出する精度の高い解析が可能になった。したがって実験データの解析に関しては当初の計画より以上に進展していると言える。 (2)本研究を提案した際に、脂質二重膜と太陽電池材料の2種類の測定対象を計画していた。現在太陽電池材料に関しては、最も一般的に用いられているP3HT/PCBM混合薄膜を対象に、近接場光学顕微鏡測定を実現しており、すでにナノスケールのドメイン構造の存在を実証する結果を得ている、したがって研究の進捗は順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) DBSCANの改善:現在100パルス励起の表面増強ラマンスペクトルを、DBSCAN(密度に基づいたノイズあり空間クラスタリング)を用いてクラスター分析したが、その結果クラスターに対応したピークを検出し、ノイズを除去することに成功している。これにより、スペクトルのSN比は48%改善された。さらにクラスター位置以外の関連したピークも検出できることが示唆された。現在、解析に使う代表値のサンプリング数が少ないため、ピークの検出が十分な精度で行われていないと思われる。今後はスペクトルから抽出する点数を増やすことで分析法としての信頼性を向上させる必要がある。 (2) バルクヘテロジャンクション太陽電池材料の評価:P3HT/PCBM混合薄膜の近接場光学顕微鏡測定にはすでに成功しており、ナノスケールドメインの存在を実証することができた。今後はシングルパルスによるより詳細な解析を行うことで、通常の近接場光学顕微鏡では得られない微細構造についての知見を得ることを計画している。測定手法に関しては、顕微鏡が透過型の実験配置であり、試料の吸収による信号のロスが問題となっているため、これまでの励起レーザー488nmにかわって本年度は633nmレーザーを導入することを検討している。 (3)脂質二重膜の動的構造:DSPCを対象に脂質二重膜の試料の顕微ラマン分光測定にすでに成功している。これまでの実験は空気中で行ってきたが、今年度は試料を水中に浸した状態で測定を行う。必然的に生じる試料のゆらぎをシングルパルス測定によって解析して、時間スケールの情報を合わせて取得していく。
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Research Products
(7 results)