2017 Fiscal Year Annual Research Report
固液界面現象解明のための溶液化学反応における電子状態ダイナミクス計測開発
Project/Area Number |
17H02822
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
池永 英司 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 准教授 (90443548)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中尾 愛子 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (60342820)
金山 直樹 信州大学, 総合医理工学研究科, 准教授(特定雇用) (80377811)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 硬X線光電子分光 / 固気・固液界面 / 大気圧溶液セル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は大気圧湿潤環境下の試料に対する電子状態観測を可能とする硬X線光電子分光(HAXPES)測定の独自技術を基に、化学反応中の固液界面とその近傍の液相における電子状態変化の“その場”観測を行う。従来の光電子分光は試料環境に高真空(10-6Pa以上)が必要で、湿潤試料の適応が困難であった。第三世代光源SPring-8で世界に先駆けて開発されたHAXPESを適応させ、この問題を解決する。液体のような湿潤試料の界面電子状態分析は、燃料電池等の高効率な次世代クリーンエネルギー開発や高価な元素の大量消費を回避させる低炭素型社会の構築が求められる現状で、重要な課題である。また液体を対象とした電子状態の研究分野は、その計測の困難さから敬遠され、著しく遅れているのが現状である。光電子分光計測分野においてフロンティアである液体電子状態探索に挑む本研究は、新規性が極めて高い研究開発である。光電子透過窓を用いた「大気圧溶液セル」に温度制御および電場依存性計測を加えた高度計測技術の開発を行い、微粒子-溶質界面をもつ系(コロイド溶液等)における複雑な固液界面現象の理解を深化させ、先駆的な研究展開を図る。 近年用いられている差動排気型アナライザーと比較して、真に大気圧下の溶液および固液界面電子状態を取得できる点で本開発は優位である。本開発・高度化における波及は、固気、固液界面をもつ環境分子・生体科学の“生もの”(電池材、光合成反応や新薬開発)などへ適応を拡大が見込まれ、広範な湿潤な試料界面における研究の促進が期待される。 最近、上記した長年の開発が結実し、pHが異なるNaCl水溶液中に分散したAuNP(Auナノ粒子)と水溶液自身の電子状態測定に成功している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近年、申請者は高真空内に湿潤な試料環境を保てる大気圧溶液セルの独自開発を達成し、pHが異なるNaCl水溶液中に分散したAuNP(Auナノ粒子)と水溶液自身の電子状態測定に成功している。Auの電子状態における知見として、フェルミ端近傍に量子サイズ効果に起因する電子状態密度の減少を観測し、価電子帯ではAu5dバンドとO2pの混成による構造が現れていることから、AuNP表面吸着種は酸素であるが分かった。またCl1s、Na1s内殻準位スペクトルから、水和するCl-やNa+または電気二重層を形成するNa+の描像を得た。さらに興味深いことに、低pH水溶液にのみ、AuNPと吸着するCl-と帰属できる特異なピーク成分を観測した。以上の結果から、AuNP表面にはO-が吸着し、特に低pH水溶液ではO-とCl-が混在して吸着している描像を考察している。また、イオン吸着によるAuNP表面の負帯電及び、その周囲を取り囲むH+またはNa+による電気二重層の形成がもたらすクーロン反発相互作用が起因となって分散状態を保つ構造を提案した。概ね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
「大気圧溶液セル」システムに安全対策を施し、機器に影響が小さいことは確認している。しかし、さらなる安全対策やビームタイム確保および効率化を目指す必要性がある。くわえて広範な分野開拓では、「大気圧溶液セル」機器の高度化が迫られている。以下に問題点とともに計画している高度化案を箇条する。 1. 光電子透過窓材の高導電化およびラジカル反応抑制 問題点:試料溶液種に依存し帯電が起きる。この帯電に起因する窓の破損が問題となっている。(導電性が良好な溶液試料では、試料に電子が流れ、長時間のX線照射でも破損が起きない)解決案:現状使用しているSi3N4メンブレン(膜厚15nm)が過去の多種窓材を適用した試行によって、最も耐圧が良好であることが分かっている。これを基板として表面コーティングなど窓材の高導電化により帯電破損事故を解消する。また本高導電化やラジカル反応を抑制する材料を用いることにより、下項目2の技術開発も同時に解消でき、電圧印加状態での電気二重層領域の深さ分析にも応用することを考えている。 2. パルス電圧印加可能な機構開発 問題点:現状の機構では、電圧印加はできない。 高度化案:上項目1の窓材の高導電化と窓材ホルダー材の絶縁により、±10V程度の電圧印加型溶液セル製作を新たに開発。電池反応やメッキ技術など電圧印加下における固液界面の反応研究に応える機構開発。
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