2018 Fiscal Year Annual Research Report
射影多様体の小林擬距離と高次元ネヴァンリンナ理論の研究
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17H02842
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山ノ井 克俊 大阪大学, 理学研究科, 教授 (40335295)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 高次元ネヴァンリンナ理論 / 小林擬距離 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究実績は以下の通り。本研究課題の出発点の一つは、アーベル多様体の中の一般型部分代数多様体は擬小林双曲的である、という定理であった。今年度は、まずこの結果をJ. Math. Soc. Japanより出版することができた。一方で、この定理を古典的なブロッホ原理、すなわち複素平面からの正則写像に関しては定数性を導くような条件は、単位円板からの正則写像の族に対しては正規性を導く、と比較すると、十分に一般的な主張になっていない、という弱点に気が付く。この弱点の帰結は、アーベル多様体の中の一般型部分代数多様体の特殊集合に入っている二点については、小林擬距離の情報を引き出せない、という問題に直結しており、以前から解決法が分からないままであった。今年度はこの問題を研究して、以下の結果を証明し、現在論文を執筆中である。すなわち、アーベル多様体の中の一般型部分代数多様体への、単位円板からの正則写像の族が与えられた時、ある真部分アーベル多様体による商をとると、この族は正規族となる。これは、ブロッホ・落合の定理と比較するとき、自然なブロッホ原理の実現として解釈できる。他方、本研究課題のもう一つの柱である、第二主要定理型評価式に関しては、代数型正則曲線に対する、強い形の第二主要定理予想に関して、それがアーベル多様体とその双有理同値類に対して成立すれば、任意の射影多様体に対して成立することを証明した。現在のところ、第二主要定理はアーベル多様体をターゲットとする場合が最も研究が進んでいる。今回の結果によって、アーベル多様体の場合を詳しく調べることによって、一般の場合の第二主要定理予想を証明できる可能性が出てきたことには、十分な意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、アーベル多様体の中の一般型部分代数多様体への、単位円板からの正則写像の族に関して、満足のいく形でブロッホ原理を確立することができた。これは、これ自身でも興味深いが、さらに、ここ数年来、踏み込むことが出来なかった、アーベル多様体の中の一般型部分代数多様体の特殊集合に入っている二点についての小林擬距離の研究について、新しい可能性を開くものである。また、本研究課題においてはもっぱらアーベル多様体と関連する射影多様体を研究しているが、今年度に得られた成果によって、一般の射影多様体についての第二主要定理予想を研究する上でも、実はアーベル多様体の場合を調べれば十分である可能性が示唆された。以上から、今年度はおおむね順調に研究計画が進展したと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は以下の通り。まずアーベル多様体の中の一般型部分代数多様体への、単位円板からの正則写像の族に関する、今年度に得られたブロッホ原理の結果を論文としてまとめて公表する。さらに、この結果を用いて、アーベル多様体の中の一般型部分代数多様体の二点の小林擬距離が0であれば、この二点は、この部分代数多様体に含まれる部分アーベル多様体の平行移動の鎖によって結ばれる、ということを証明したい。これは、小林擬距離が0になる二点に関して期待される、最もよい結果となるであろう。さらに、今回のブロッホ原理の証明に用いられる技法は、準アーベル多様体の中の対数的一般型な準射影多様体に対しても適用できる可能性がある。これが達成できれば、1920年代にブロッホ、およびカルタンによって進められた、古典的なモンテルの定理の高次元化に関する研究を一般化し、精密化できる可能性がある。これは幾何学的な視点でいくと、射影空間から次元足す2個の超平面を除いた空間の小林擬距離の振舞の研究と理解できる。また、第二主要定理予想に関しては、今年度の研究成果を踏まえて、アーベル多様体をターゲットとする代数型正則曲線に対する強い形の第二主要定理予想が主な研究の対象になる。また、多少技術的な問題ではあるが、今年度に得られた成果では、強い形の第二主要定理予想をアーベル多様体とその双有理同値類の場合に帰着しているので、厳密には、アーベル多様体の場合には帰着できていない。これをアーベル多様体の場合に帰着できるかは今後の課題である。
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Research Products
(2 results)