2017 Fiscal Year Annual Research Report
New Physics at LHC and development and construction of fast tracking system
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17H02902
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
寄田 浩平 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (60530590)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 素粒子実験 / LHC/ATLAS実験 / ヒッグス粒子 / 新粒子探索 / 高速トラッカー |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は、「新粒子探索」と「高速飛跡トラッカー挿入・試運転」の2本柱で研究を進めた。まず、電弱対称性の破れの根幹である弱ボソンの発散の抑制機構(ヒッグスによるユニタリティー回復)を調べるべく、弱ボソンの散乱測定の実行性を検証した。もし新現象のエネルギースケールが非常に高かった場合、その影響がこの弱ボソンの散乱断面積のエネルギー依存性に影響し、スペクトルが標準模型の予想からずれることが知られているため、新粒子・新現象探索に有効な解析である。そこで新しくセミレプトニック崩壊を提案し、Run2の初期データがあれば3σ程度の感度で初観測可能であることを示すことができた。またSUSYの枠組みの中で、暗黒物質の有力候補であるニュートラリーノと、チャージーノの質量縮退している過程の探索も行った。2017年度は感度向上のため、これまでよりさらに短い飛跡(衝突点とピクセル検出器2層やピクセル検出器3層)を再構成するための原理・実行性の検証を行った。また、Run2データを使った解析において、信号として扱うのは不可能とされていた(より短い飛跡のため同定が困難な)higgsino探索に対する解析感度の再解釈を行い、論文にまとめた。 2つ目の柱である高速飛跡再構成システム(FTK)のコミッショニングも大きく進展した。 我々が開発製作したFTKシステムの最上流でシリコン検出器から40MHzの高速通信で送信されるヒット情報を受信し、クラスタ化する機能をもつ受信カードのATLAS検出器への挿入作業を進め、試運転を開始することができた。ハードウェア動作試験、挿入作業、ATLAS Run Controlへの実装に加え、実機で運用するパターン・コンスタント生成と各種詳細チューニングやpixel-ToTを用いた実機変数の最適化とそれによる飛跡変化の評価を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究が目指す「新発見」には未だ至ってはいないが、今後、LHCの高輝度運転による急激なデータ増加を見据え、さらに発見感度を向上していくための新しい手法や探索法を提案し、その実行性も示しながら着実に推進することができている。ヒッグス粒子がτレプトン対に崩壊する過程の質量分解能改善手法や、逐次的に貯まるデータのトリガー効率の確認等、これまでの経験を活かした研究を行い、内部会合や日本物理学会で公表した。また、とくに標準模型における電弱対称性の破れの検証を基軸とした高エネルギー現象の探索(VBS過程)と、再構成が困難な消失飛跡解析は、双方ともに挑戦的な課題ではあるが、本研究の目的とよく整合する特色のある方策といえる。VBS解析に関しては、標準模型の検証だけでなく、電弱ボソンの異常結合にも大きな制限をつけることが可能なことを示すことができた。また、Run2初期データを使用した消失飛跡の解析結果を冬の国際会議で発表し、また、高輝度パイルアップ抑制のためにATLAS実験に新しく導入されている高速飛跡ハードウェアの試運転や整備についても、CERN現場において主導的に進めることができた。一部、現場の加速器・検出器の状況により、計画通りの試験ができない事態になったが、2018年度中の試運転・本格稼働に向けての体制を整えることができた。なお、早大の2017年度貢献度は要求値の300%近い数字で評価されている。初年度の進捗状況を総括すると、トリガー回路・実装・評価から新しい解析手法の提案、暗黒物質や電弱対称性の破れの検証にくわえ、より高いエネルギースケールでの新物理発見に向けた基礎開発を並行して実地的に行うことができたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年、LHC加速器の瞬間輝度は2×10^34に達し、高輝度実験として運転されている。今後の実験環境はさらに厳しくなることが予想される。これに伴う急務な課題は、FTKシステムによる飛跡情報の有効活用である。2018年度の加速器再開とともに磐石な状況を構築し、高輝度下でのオペレーションに対して十分な対策を講じることが重要である。また、標準模型を超える重粒子探索や超対称性粒子に代表される新現象探索も、これまで同様、現地海外研究者との密な議論を行った上で推進する。とくに2017年度までの全データを用いたVBS過程の検証と高エネルギー現象を探索するための縦偏極タガーの確立、消失飛跡を用いた暗黒物質/超対称性探索の解析をさらに強化する。より具体的にはチャージーノがニュートラリーのに崩壊する際に生成される低運動量のパイオンの同定手法の確立やカロリメータ・ベト等、これまでにされていない解析を進めることで、Wino-LSPより短寿命のHigssino-LSPも含めて、包括的な発見感度向上を目指す。また、VBS過程の結果に関しても、標準模型検証だけにとどまらず、EFTを使った異常結合制限も含めた学術論文を公表する。実際の新物理がどこに・どのようにあるかわからないため、これまでの手法や解析に捕らわれず、他実験の超過等も考慮した新しい解析チャンネルを提案し、包括的に新現象発見に向けた戦略で進める予定である。
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Research Products
(21 results)