2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17H02914
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
小川 直毅 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, チームリーダー (30436539)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
五月女 真人 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 特別研究員 (40783999)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 光物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では, 室温でも発生する高速低散逸の電流として「シフト電流」の学理を追求している. シフト電流は反転対称性の破れた物質の光励起に際して発生し, その起因は電子軌道のベリー接続に依存した電荷分布の空間変位であり, 量子力学的な効果である. 初年度に, THz波の発生を利用した光電流計測法を採用することにより, サブピコ秒の時間分解能でシフト電流発生の初期過程が定量評価できること, また結晶構造が既知の試料においては, 第一原理電子状態計算からベリー接続を評価することにより, 光電流のスペクトルを定量的に予言できることが明らかになっている. その実証にはよく知られた強誘電性半導体であるSbSIを使用した. 本年度は上記発見が普遍的であることを確認するため, SbSIと同様に室温付近で比較的大きな強誘電性分極を示し, また可視光領域にバンドギャップを有するSn2P2S6単結晶を用いてシフト電流の評価を行った. ペルチエステージとサーモグラフィーにより試料温度を精密制御し, 入射パルス光が駆動するシフト電流が放出するTHz電磁波を検出/分光することにより, その試料温度依存性, 光子エネルギー/強度, 偏光依存性などを調べた. 結果は全てシフト電流の発現を示唆するものであり, 特に励起スペクトルは共同研究者による第一原理電子状態計算から求めたものとほぼ完全な一致を示した. Sn2P2S6はSbSIと多少異なる強誘電相転移を示すことが知られているが, 以上の結果は, その相転移機構の詳細関わらず, 反転対称性の破れた物質中では光励起前後のベリー接続の変化に依存した瞬時光電流が流れうることを示している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
試料からのTHz電磁波発生を用いた, 高速光電流測定手法によるシフト電流分光が定常的に行える状態にある. 初年度に投稿済みであったSbSI試料におけるシフト電流発生については, 査読コメントに対応するため, 再実験を行なった. 試料結晶の劣化が判明したため, 本年度新たに試料を合成し, 全ての測定を繰り返したが, 良好な再現性が確認され, また論文もProceedings of the National Academy of Sciences of the United States of Americaに掲載された. またSn2P2S6試料を用いた実験はApplied Physics Lettersに掲載が決まり, Cover artとHighlights of the best new researchに選ばれている. また新たな試料系として, 理論的にシフト電流の発生が予測されているエキシトン系, 加えて反転対称性の破れたWeyl電子系などにおいても予備実験を開始しており, それぞれ自発光電流の信号が確認されている. 研究計画における「15フェムト秒分解能でのシフト電流観測」, 「シフト電流のスピン/フォノン等素励起との結合」と「非局所プローブによるコヒーレンス測定」は未達であり, 最終年度の課題となる.
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画のうち, 特に未達の内容についての実験を進める. 「15フェムト秒分解能でのシフト電流観測」については現有レーザーシステムの後段に非同軸パラメトリック増幅器を構築する予定であり, THz発生分光のセットアップを含めた新規実験系を構築中である. 「シフト電流のスピン/フォノン等素励起との結合」については, スピンスパイラル系のマルチフェロイクス試料を主なターゲットとして実験を進める. 今年度新たにカイラル格子磁性体Cu2OSeO3試料の合成を行なったため, この試料においてもシフト電流によるヘリマグノン/スキルミオン/フォノン励起を試みる. 「非局所プローブによるコヒーレンス測定」についてはイメージング分光による評価を計画している. 試料中で局所的に駆動されたシフト電流から発生するTHz電磁波は, EOサンプリング法によりZnTe単結晶を用いて検出しているが, 試料をZnTe単結晶上に結像することにより, 位置選択的にサンプリングを行い, 局所的に励起されたシフト電流の空間伝搬を明らかにできると考えている. 以上に加え, 広範な物質群におけるシフト電流の観測として, 強誘電体/界面/カイラル/マルチフェロイクス/トポロジカル/ワイル物質等多様な系にTHz放射分光を適用し, 大きな発生効率を示す電子構造を探索するとともに, 外部電場/磁場によるシフト電流の制御を試みる. 理論共同研究者の予測によると, いくつかのカイラル物質について, 巨大なシフト電流が期待される.との
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Research Products
(10 results)