Outline of Annual Research Achievements |
反転対称性の破れたバルク結晶中で発生する光電流は, これまで主に「異常光起電力」と呼ばれ, その微視的機構は明らかでなかった. 本研究では, このような光電流が高速低散逸の「シフト電流」発生として理解できることを, 実験と理論の両側面から実証するとともに, その学理の追求を目的としている. シフト電流の発生は量子力学的な効果であり, 光励起に際して電荷分布の瞬時空間変位が発生する. その変位は初状態/終状態の波動関数ベリー接続の差に比例しており, 一種の分極電流ともいえる. 研究計画では(i)15フェムト秒時間分解能でのシフト電流観測, (ii)シフト電流のスピン/フォノン等素励起との結合, (iii)非局所プローブによるコヒーレンス測定, の3項目を課題として挙げた. (i)は海外グループの研究が先行したため, 計画変更を行なった. (ii)では研究所内での共同研究のもと, ワイル半金属の候補である合金系試料の中赤外光励起, また強誘電体のソフトフォノン励起によるシフト電流観測を試みた. どちらの実験においても, スペクトル構造を有した自発光電流が観測され, 現在, 理論計算との比較を進めている. (iii)について, THz波の発生を利用した高速/非接触の光電流計測法を開発した. ここでは, 試料中で局所的に駆動されたシフト電流から発生するTHz電磁波を, EOサンプリング法により検出している. ここで, 試料の実空間像を検出器側ZnTe単結晶上に結像し, 場所選択的に集光したレーザーを用いてサンプリングを行うことにより, シフト電流の空間伝搬, その非局所性の検出を試みた. 結果, 強誘電性半導体SbSI試料においては, 試料表面の光励起スポットからの光励起キャリアの染み出しは観測されなかった. 原因としては, 空間分解能とTHz波の検出感度の不足が考えられる.
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