2017 Fiscal Year Annual Research Report
Novel nonequilibrium phenomena and phase transitions in superconducting vortex systems
Project/Area Number |
17H02919
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
大熊 哲 東京工業大学, 理学院, 教授 (50194105)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 渦糸 / 非平衡相転移 / 動的秩序化 / ディピニング転移 / 可逆不可逆転移 / 相分離 / 走査トンネル分光 / アモルファス超伝導膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は低速駆動された渦糸系の新奇非平衡現象の探究に焦点をあてた以下の2つの研究を進めた。 (1)動的秩序化と無秩序化に伴う渦糸配置の変化: ランダムなピン止めサイトをもつ基板上で, 多くの渦糸がピン止めされた乱れた初期配置を準備し交流駆動力を印加すると, 渦糸は時間と共に次の衝突を避ける配置に自己組織化し秩序ある終配置へと向かう。これを動的秩序化と呼ぶ。これに対し, 多くの渦糸がピン止めからはずれた秩序ある初期配置に小さい直流の駆動力を印加すると, 渦糸が徐々にピン止めに捉えられ, 乱れたプラスチックフロー状態へと向かう。これを動的無秩序化と呼ぶ。我々が開発した過渡電圧の入力と読み出しの2段階測定手法を用いることにより, 動的秩序化の過渡状態では渦糸は乱れた領域(DR)と秩序的領域(OR)に2相分離し, 時間と共にORの割合が増大し, 定常状態ではすべてがORになることを見出した。ところが交流に小さい直流を重畳させると動的秩序化は抑制され, ちょうど直流の大きさが交流振幅と一致するとき動的秩序化は消失した。これは動的秩序化が起こるためには, 渦糸が引き返す運動が必要であることを意味する。 (2) 非平衡ディピニング転移: これまで我々は, 定常状態がムービング相となる領域において, 動的無秩序化に伴う臨界緩和を, 直流駆動力をパラメタとして観測し, 非平衡ディピニング転移の存在を初めて実証した。本研究では定常状態がピン止め相となる低駆動力領域において, 臨界現象の観測を試みた。その結果, ムービング相と同様の臨界現象を観測した。さらに交流振幅あるいは渦糸密度をパラメタとしても同様の臨界現象を観測した。これらの結果は非平衡ディピニング転移のさらなる証拠となる。一方, 直流駆動力印加直後の早い時間領域に, ディピニング転移とは異なる過渡現象が現れることを見出した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
(1) 交流駆動力に小さい直流を重畳させることにより, 動的秩序化を制御して抑制することに初めて成功した。本研究で見出された, 直流駆動力の増大と共に動的秩序化が抑制されるという実験事実は, ランダムポテンシャル中を引き返す運動が秩序化をもたらしていることを意味する。そして, ちょうど直流と交流振幅が一致するとき, すなわち, 引き返す運動が完全に消失するとき動的秩序化が消失するという事実もこの描像を指示する。ここで得られた実験結果は, 超伝導渦糸系に限らず, 乱れた初期配置をもつ多粒子系に普遍的な現象と考えられ, 他の分野に対して大きな波及性をもつ。例えば, 希薄なコロイド粒子系や高密度のジャミング粒子系における同様の研究を促すものと期待される。この研究の発展として, 渦糸がどのような空間配置をとっているかが, つぎの興味ある基本的問題である。 (2) 直流駆動力をパラメタとして, 定常状態がピン止め相とムービング相となる両相において, ディピニング転移の臨界現象を観測したこと, さらに交流振幅や渦糸密度をパラメタとしても同様の臨界現象を観測したことは, 非平衡ディピニング転移の普遍性を示す新たな証拠となる。直流のディピニング転移点の両側での臨界現象の存在は理論的には予想されていたが, 実験的検証が得られたのは本研究が初めてである。これに対し, 交流振幅や渦糸密度に対する臨界現象の存在は, 実験だけでなく理論的にも考えられてこなかった。さらに, 直流駆動力印加直後の早い時間域にディピニング転移とは異なる過渡現象を発見したことは, 新たな非平衡相転移の存在を予感させるものである。これらは当初の計画を超える成果といえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は29年度の研究を発展させ, 巨視的スケールにおける電圧の過渡現象測定に加え, 我々が並行して開発を進めてきた走査トンネル分光顕微鏡内に輸送測定用の回路を導入した装置を用いて, 微視的スケールにおける渦糸運動の局所実時間測定も行う。 (1)動的秩序化と無秩序化の競合現象とそれに伴う渦糸配置の変化の解明: 平成29年度には交流に小さい直流を重畳させると動的秩序化は抑制され, 直流の大きさが交流振幅と一致するとき動的秩序化が消失することを見出した。これらの終状態で, 渦糸がどのような配置をとっているかは定性的にも非自明な興味ある基本問題である。そこで平成30年度は, まず, 我々が開発した2段階の電圧の過渡現象測定によって, 定常状態で凍結させた渦糸配置の巨視的スケールの情報を得ることを試みる。つぎに, 走査トンネル顕微鏡の探針を固定した状態で, 高速のトンネル分光を行うことにより, 探針の直下を通過する渦糸の運動の実時間情報を取得する。これにより, 輸送測定から得られる情報と相補的な渦糸の運動に関する微視的情報を得ることを目指す。 (2) 新たな動的相転移の探究: 平成29年度には直流駆動力印加直後の早い時間領域に, ディピニング転移の過渡現象とは異なる新しい過渡現象が潜んでいることを見出した。そこで, 30年度はその物理的起源を明らかにして行く。そのため, これまでの電圧分解能を重視したスペクトラムアナライザーを用いた測定から, 高い時間分解能を有するオシロスコープ(購入物品)を用いた測定にシフトする。こうして, 早い時間帯の緩和時間を精密に測定することによって, 新たな臨界現象・非平衡相転移の存在を探究する。
|
Research Products
(25 results)