Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度に引き続き, 電流駆動された渦糸系の発生する電圧の過渡現象測定の高精度化を進めることにより,(1) 非平衡相転移である可逆不可逆転移に関する多くの知見を得た。さらに, 極低温高磁場走査トンネル顕微鏡内に輸送測定回路を導入した装置の立ち上げを進めることにより, (2)渦糸の直流輸送測定と実空間観測を同一装置内で初めて実現することに成功した。 (1) 超伝導渦糸系における可逆不可逆転移の臨界現象の解明: 可逆不可逆転移は, 交流駆動下の多粒子系の動的秩序化によってもたらされる非平衡相転移現象である。我々はコロイド系に次いで, 渦糸系でこの現象を見出し, この相転移の普遍性を実証してきた。本研究では, 渦糸系に印加する交流せん断力の周波数を高周波にすることにより, 渦糸速度の測定精度をこれまでより格段に向上させた。その結果, 可逆不可逆転移の2つの臨界指数を高精度に求めることができ,可逆不可逆転移が2次元DP普遍クラスに属する強い証拠を得た。さらに, 緩和時間の駆動振幅依存性から, 可逆相に2つの状態が存在すること, および可逆相と不可逆相の間に挟まれた新たな状態が存在する可能性を見出した。後者は, 最近のシミュレーションで予想されているスメクチック状態に対応している可能性がある。 (2) 走査トンネル分光法による直流駆動された渦糸格子の観測: 渦糸の輸送測定と, 運動を凍結させた渦糸配置の走査トンネル分光測定を行うことにより, これまで実験で明らかにされてこなかったプラスチックフローにおける渦糸の運動状態を初めて観測した。プラスチックフロー状態ではシミュレーションで予測されている1次元チャンネル的なフローより, むしろ多結晶状の渦糸格子のフローが実現していること, さらに, 駆動速度を上げると格子方位の揃った渦糸格子のフローに移り変わって行くことを明らかにした。
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