2018 Fiscal Year Annual Research Report
軌道自由度が活性な強相関系における新奇量子凝縮状態の研究
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17H02920
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
井澤 公一 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (90302637)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
細井 優 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (00824111)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 強相関電子系 / 多極子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,多極子(軌道)自由度が活性なPr化合物に見られる多極子と強い電子相関がもたらす特異な量子凝縮状態の本質を明らかにすることを目的としている. 平成30年度は,新たに発見されたPrPt2Cd20の電気抵抗率,ホール係数,ゼーベック係数の極低温磁場中測定を重点的に行った.その結果,エネルギースケールは異なるものの,電気抵抗率はPrT2Zn20のそれと類似した振る舞いを見せることが分かった.このエネルギースケールが異なることについては,格子定数の違いに由来する結晶場の大きさの違いでおおよそ説明できることを見出した.一方,他の輸送係数はPrT2Zn20のそれとは一見異なる振る舞いを示すことも分かった.さらに,これらの結果をもとに構築した温度磁場相図は,PrT2Zn20のそれとはかなり異なることも明らかとなった.これらの結果は,単純な結晶場の違いでは説明困難であり,むしろ混成強度の違いにより実現した電子状態をみている可能性が強く示唆される. この物質は,当初計画には無かった物質ではあるが,PrT2Zn20と同じ結晶構造をもち,同様に多極子自由度が活性な系である一方で,PrT2Zn20と比べて格子定数が大きいことから,PrT2Zn20よりも4f電子と伝導電子との混成強度が弱い多極子系であることが期待される.上述の結果は,その可能性を支持すると考えられる.このことは,この系をさらに調べてゆくことにより,これまで議論が難しかった混成強度の違いが電子状態にどう影響するかといった議論が可能となることを意味する.そして,その議論から,本研究の目的に関わる極めて重要な情報が得られることが期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は,大別して,高圧下における輸送係数の測定,及び他のPr化合物の熱電係数の精密測定の2つの実験を計画していたが,「研究実績の概要」で述べたように本研究を進める上で重要な鍵を握っていると期待されるPrPt2Cd20の純良単結晶を入手することができたため,計画していた2つの実験のうち後者を重点的に進めた.そのため,計画とは一部異なる展開となっている.しかしながら,上記の判断により,本研究において最も重要な課題の1つであるf電子と伝導電子の混成強度が多極子由来の電子状態にもたらす効果の理解につながる重要な実験結果が得られていることを考えると,本研究は概ね順調に進展していると判断できる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度は,引き続きPrPt2Cd20の実験を極低温強磁場で行い,その温度-磁場相図の詳細を明らかにしていく.さらに,他のCd系PrT2Cd20の実験も同様に行い,構築した温度-磁場相図をPrT2Zn20のそれとあわせて系統的に議論することで,混成強度の違いが多極子由来の電子状態にもたらす効果の理解を進める. さらに上述の計画の進展状況およびマシンタイムを考慮しながら,適宜PrRh2Zn20の圧力下極低温での輸送係数の実験を進める.その際,非フェルミ液体を特徴付けるエネルギースケールの圧力変化など,四極子近藤効果をはじめとする多極子由来の電子状態に対する圧力効果を明らかにする.あわせて,圧力により四極子秩序が抑制され消失する点近傍での臨界的挙動の有無や,より低温での電子状態を詳しく調べ,これまで本研究で明らかにしてきた磁場中測定の結果との相違点を明らかにしつつ,本計画の重要なターゲットの1つである時間反転対称性の破れの有無による電子状態の違いを議論する.
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