2018 Fiscal Year Annual Research Report
砒化亜鉛化合物新規磁性半導体の高品位薄膜成長と高機能化
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17H02921
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
生田 博志 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (30231129)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
畑野 敬史 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (00590069)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 磁性半導体 / 砒化亜鉛化合物 / 薄膜成長 / 電子構造制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、(Ba,K)(Mn,Zn)2As2などの砒化亜鉛化合物で、キュリー温度TCの高い磁性半導体が相次いで発見された。その強磁性発現機構の解明は基礎物理の観点から重要であるとともに、これらの系は新規スピントロニクス材料として応用上も興味深い。また、AsのSbまたはPへの置換でTCが上昇することが理論的に予言されている。本研究では、これらの系の薄膜化に取り組むとともに、元素置換効果等を通して、強磁性発現機構に関する知見を得ることを目的としている。 本年度は、パルスレーザー蒸着(PLD)法による薄膜成長を行った。PLD成長用のターゲットを準備した上で様々な条件で成膜した結果、やや不純物相を含むものの、MgO基板上に(001)配向した(Ba,K)(Mn,Zn)2As2薄膜が得られた。また、電気抵抗率の温度依存性も半導体的な振舞いを示した。ただし、組成分析の結果からはK置換量が少ないため、成膜条件のさらなる最適化が必要である。一方、理論的予言の検証のためにAsをPに置換したバルク試料の作製に取り組み、Snフラックス法による単結晶作製に成功した。昨年度、Sb置換を行ったところ、電気抵抗率が減少して金属的な温度依存性を示すことが問題であったが、P置換系は半導体であった。しかし、逆に磁化率測定では強磁性的な振舞いは見られなかった。強磁性はキャリア誘起で発現すると考えられるため、さらに元素置換を進める必要があると思われる。そのため、非平衡状態で成長する薄膜の作製が有効と考えられるため、P置換系のPLD用ターゲットの作製にも取り組んだ。当初は組成ずれが大きかったが、前駆体の工夫などでこれらの問題を解決し、薄膜作製の準備を行うことが出来た。また、当初の予定であった分子線エピタキシー (MBE) 法での成膜に向けてセルヒーターの修理などを行い、MBE法での成長の準備も整えることが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
砒化亜鉛化合物系新規磁性半導体薄膜の成長には、当初は分子線エピタキシー (MBE) 法を用いることを計画していたが、セルヒーター断線を始めとするトラブルのために一時中断を余儀なくされた。そこで、今年度は新たにパルスレーザー蒸着(PLD)法を成膜手法に用いることとした。当初はターゲットの準備に時間を要したが、最終的には成膜を行うことが出来、(Ba,K)(Mn,Zn)2As2の薄膜を得ることに成功した。ただし、不純物相がまだ残っていることや、組成ずれがあるために、さらに成膜条件の最適化が必要である。一方、MBE法による成膜に関しては、昨年度末に発生した様々なトラブルの修復に努めた結果、実験を再開できる見込みが立った。したがって、結果的には二つの異なる手法で成膜に取り組むことが可能となり、今後、成膜実験の遅れを取り戻すことが出来るものと期待される。 一方、理論的にはAsのSbまたはP置換でキュリー温度TCが上昇すると予想されている。昨年度はSb置換試料を作製して室温を超える高いTCを観測したものの、電気抵抗率が金属的に振舞うことがわかった。それに対して、今年度はP置換試料の作製に取り組み、(Ba,X)(Mn,Zn)2P2 (X=K, La)の単結晶育成に成功した。物性測定の結果、P置換系では、半導体的な振舞いを維持することが分かった。ただし、強磁性は観測されず、P置換系ではさらにキャリア注入が必要と考えられる。また、関連物質のCa(Mn,Zn)2Bi2が特異な磁気抵抗効果を示すことを昨年度見出したが、元素置換効果により磁気抵抗効果の振舞いの変化が磁気ゆらぎの違いで説明できる可能性があることがわかった。このように、バルク体を用いた物性探索については順調に推移し、様々な知見を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度のトラブルを受けて今年度はパルスレーザー蒸着(PLD)法による薄膜成長を行い、不純物相がやや含まれているものの、目的相が(001)配向した薄膜を得ることに成功した。今後は、さらに成膜条件を最適化して膜質の向上を目指す必要がある。また、基板を変えることで基板との格子ミスマッチによって印加される歪量の異なる薄膜を作製し、それに起因した電子構造の変化が物性に与える影響についても調べる予定である。一方、分子線エピタキシー(MBE)法による薄膜成長についても目途がついたため、様々な条件で薄膜を成長して、それぞれの系に適した手法での高品位薄膜成長を目指すこととする。さらに、これまでの単結晶試料での測定結果を踏まえてAsをSbまたはPで置換した薄膜の作製も行う。特に、Sb置換試料は亜鉛ニクトゲン化合物で初めて室温で強磁性を示したものの、電気抵抗の振舞いは金属的であった。しかし、全置換ではなくて部分置換であれば、半導体的振舞いを維持しながらキュリー温度TCがAs系を上回る可能性が考えられるため、これらの薄膜成長にも取り組む。
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Research Products
(7 results)