2017 Fiscal Year Annual Research Report
Novel Elastic Effect and Possible Supersolidity in Helium Films
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17H02925
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
白濱 圭也 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (70251486)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 低温物性 / ヘリウム / 薄膜 / 超流動 / 弾性 / 水素 / グラファイト / グラフェン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、申請者が発見したヘリウム薄膜弾性率の異常な増大を量子弾性効果と名付け、その探求を基軸として、固体表面に吸着した原子分子薄膜の新奇物性を開拓するものである。特にグラファイトの平坦でかつ周期ポテンシャルを持つ表面上のヘリウム薄膜における超固体状態(固体の超流動状態)を探索すると共に、グラフェン上ヘリウム3薄膜で期待されるディラック分散や、純2次元トポロジカル超流動状態の観測をめざした研究を展開することを目指す。これまでの研究で、当初の4Heだけでなくヘリウムフェルミ同位体の3He薄膜、より量子性が弱いネオンおよび水素薄膜でも弾性率の増大を観測した。よって当初量子弾性効果と称していたこの現象を「弾性異常」と名付ける。弾性異常は吸着薄膜に普遍的な現象と考えられる。 平成30年度は、水素薄膜に対して弾性異常の探索を行い、H2,HD,D2の3種類の水素同位体薄膜全てにおいて弾性異常を観測することに成功した。水素薄膜では3種類の弾性異常が約5Kから1Kまでの温度域で発見された。このうち最低温で観測された弾性異常は、薄膜最表面の水素の拡散の凍結に起因すると解釈され、その温度1K付近で停滞することから、水素薄膜では最表面がバルク三重点(13.7K)の約10分の1まで「液体」として存在するが、超流動を示す前に固化することが明らかになった。この事実は水素薄膜の超流動状態を実現する上で重要な指針となる。 さらに当初の目標の一つであるグラファイト上ヘリウム(4He)薄膜の弾性測定を行い、単原子層程度の膜厚で弾性異常を観測した。このことから、弾性異常が基板の不均一性に関係なく起こることが明らかになった。弾性異常がグラファイト上ヘリウム薄膜の多様な状態とどう関係するか大変興味深く、今後本研究で明らかにしていく。またヘリウム及びネオン薄膜の弾性異常の成果取りまとめを行い、2編の論文として出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、これまでガラス表面に吸着したヘリウムのボソン・フェルミオン同位体(4He,3He)、水素同位体(H2,D2, HD)、ネオン(Ne)の薄膜全てにおいて「弾性異常」を観測し、この現象が物理吸着原子分子薄膜に普遍的に起こることを強く示唆する成果を得た。弾性異常から薄膜状態の相図を得ることに成功し、それらがヘリウム・水素・ネオンの量子性の強さで決まることと、特に水素薄膜では薄膜が超流動となる寸前に固化してしまうことを明らかにした。これは水素のような本来超流動を示さない系で超流動を実現する方法に対する指針を与える重要な成果である。更に、当初の目標の一つであるグラファイト上ヘリウム(4He)薄膜の弾性測定を行い、単原子層程度の膜厚で弾性異常を観測することに成功し、目標を達成した。これはグラファイト上ヘリウム薄膜が示しうる多様な構造・量子多体状態の研究に弾性異常現象を使えることを示した重要な成果である。一方、グラファイト上ヘリウム薄膜の実験に予想以上の時間を要したため、グラフェン振動子を用いた研究まで到達していない。 以上、予想以上に進んだ成果とまだ実現できていない実験があることを勘案して、概ね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
グラファイト(グラフォイル)基板上4He薄膜で弾性異常が発見されたことで、今後はこの現象の全貌を解明すべく詳細な実験を行うと共に、多彩な相が期待されるグラファイト上3He薄膜、および水素薄膜でも弾性測定を行う。またこれと独立に、グラファイト同様に平坦な吸着表面を有し、最近のシミュレーションで局在固体状態が殆ど存在せず、かつ基板のポテンシャルが超流動性に影響して超固体的密度波状態が実現するという興味深い提案がなされた窒化ホウ素(h-BN)基板上4He薄膜に対しても、弾性及び超流動特性の測定を行い、ヘリウム薄膜の量子相転移、新奇超流動、超固体性に関する新しい物理の解明に挑戦する。
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Research Products
(13 results)