2018 Fiscal Year Annual Research Report
量子多体系のエネルギースケール制御機構とエンタングルメントくりこみ群
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17H02931
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
奥西 巧一 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (30332646)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
引原 俊哉 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (00373358)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | エンタングルメント / 数値くりこみ群 / テンソルネットワーク / 共形場理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
1次元臨界系のエンタングルメントスペクトルが、端のある共形場理論のスペクトルにより記述されることは知られていたが、予想される有限サイズの依存性と数値計算とのずれが大きいことが問題であった。そこで、境界のある共形場理論とメビウス変換を用いて、エンタングル点の幾何学的配置状況を取り入れてスペクトルの有限サイズ補正の導出を行った。その結果、スペクトルの一部については数値計算結果との一致が大きく改善されることが示された。一方、有意なずれを有するスペクトルも観察され、他の要因による補正も検証する必要があることが分かった。次に、corner Hamiltonianに対する有限温度の量子モンテカルロ計算が特任助教の関により実施され、corner Hamiltonianの有限温度の相関関数と一様系の基底状態の相関関数が同一視できることが確認された。これにより重力理論におけるUnruh効果と等価な現象が量子スピン系でも実現可能であることが明らかになった。 一方、2次元ボンドランダムスピン系に対して、分担者の引原と特任助教の関が、Tree型テンソルネットワーク数値くりこみ群の新しい定式化を行なった。Treeの構成法をエンタングルメントと励起ギャップにもとづくもので比較検討を行った。また、くりこみ変換行列の構成に対しても同様の精度比較を行い、さらに、対角化や(可能な場合は)量子モンテカルロ法による計算精度の検証も行った。その結果、励起ギャップにもとづく数値くりこみ群の構成が、計算精度および簡便性においても性能がよいことが明らかになった。また、連携研究者の上田と奥西は、2次元6状態クロック模型のKT型相転移を大規模角転送行列くりこみ群計算と有限mスケーリング解析を組み合わせておこない、通常の共形場理論による予想と異なる結果が現れることを明らかにした。原因の解明は今後の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
端のある共形場理論とSSD問題に起因するメビウス変換を組み合わせることにより、予定通りレプリカ法を経由せずにエンタングルメントスペクトルのサイズ依存性を導出することができた。とくに、エンタングルメント点周りの境界の幾何学的配置状況が及ぼす補正項の影響が明確となり、数値計算との一致が一部改善したとともに、残る部分についてもずれの要因の絞込みが一歩進んだことになる。また、引原と特任助教も予定通りボンドランダムネスのある量子スピン系でのあたらしい実空間くりこみ群の定式化を実行することができた。その結果、とくに、エネルギーギャップにもとづくTree型のテンソルネットワークの構成がかなり有用であることが明らかになった。エンタングルメントを妄信したテンソルネットワークの設計だけでは不十分な場合もあることを示しており、Tree型テンソルネットワークくりこみ群の設計原理の再考の必要性を提起したことにもなる。今後、この視点も取り入れたTree型ネットワーク最適化についての基礎的研究展開もはかっていく。 さらに、corner Hamiltonianに対する有限温度の定式化にもとづく量子モンテカルロ計算により、重力理論におけるUnruh効果と実質的に等価な現象が量子スピン系で観測されることが明らかになった。物性系と相対論、量子論を巻き込んだ幅広い分野に波及効果をもつ研究結果であり、今後の飛躍が期待できる。以上のことから、研究は当初の計画以上に大きく進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年までに境界のある共形場理論とメビウス変換を用いて、エンタングル点の幾何学的配置状況に応じたエンタングルメントスペクトルの有限サイズ補正を導出した。数値計算結果との一致は改善されたものの依然有意なズレが残っている。単一カットオフを持つ共形場理論の導出に対し、数値計算にはレベルに依存したカットオフが存在するように見えるため、この原因をくりこみ群的な解析により究明する予定である。次に、corner Hamiltonianに対する有限温度の量子モンテカルロ計算が実施されたのに伴い、格子上のUnruh効果の定量的比較が可能となった。さらに、格子上の量子可積分系において格子Unruh効果の数学的背景を解明し、重力理論による加速度系の観測者との類似性から、エンタングルメントを量子スピン系で観測するためのプローブの理論的な提案を行いたい。 一方、研究分担者の引原と特任助教は、昨年度に引き続き相互作用にフラストレーションを含むランダム量子スピン系に対する実空間くりこみ群の開発および実装をおこなう。現状では、励起ギャップにもとづくTree型テンソルネットワーク実空間くりこみ群が最も有望である。この手法の検証を行うとともに、ランダムボンド三角格子量子反強磁性体の解析に応用し、厳密対角化法等では難しかったランダムシングレット状態の実態解明をめざす。 上記の研究に加えて、上田、奥西と研究協力者の西野で引き続き異方的な2次元多面体模型・クロック模型に対する角転送行列くりこみ群の有限mスケーリング解析をおこなう。大規模計算なため時間がかかっているが、京を用いた計算を継続的に行い、Kosterlitz-Thouless型の転移と有限mスケーリングの振る舞いを明らかにしていく。また、Tree型のテンソルネットワークの基礎的研究として,最適化に関しての指導原理の検証研究も立ち上げる予定である。
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