2017 Fiscal Year Annual Research Report
光合成初期過程の効率性と恒常性を制御する電荷分離・再結合反応の理論研究
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17H02946
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
石崎 章仁 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 教授 (60636207)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 量子ダイナミクス / 光合成反応中心 / 電荷分離反応 / 電荷再結合 / 量子非局在化 / デコヒーレンス |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の分光実験により、緑色植物等の光化学系II (PSII) 反応中心における初期電荷分離は数百フェムト秒の時間スケールで起こることが示唆されているが、これは比較的よく理解されている紅色細菌の反応中心に比べて約10倍も速い。本研究課題では、タンパク質の構造・色素の配置に関する小さな差異と光化学系IIの超高速電荷分離反応の実現の関係性について研究を進めている。最近の二次元電子分光データは色素の分子内振動がPSIIの電荷分離を促進する可能性を示唆しているが、電荷分離状態は光学禁制であるため詳細な情報を分光学的に得ることは容易ではない。本年度は、量子化学計算で得たクロロフィル分子の分子内振動のHuang-Rhys因子を用いた初期電荷分離反応の量子ダイナミクス計算を行い、PSII電荷分離においては分子内振動よりもタンパク質が誘起する揺らぎが支配的であることを明らかにした。 また、有機薄膜太陽電池はフレキシブルかつ低コストのエネルギー源として期待されている一方で、そのエネルギー変換効率は10%程度にとどまり実用化には更なる改善が必要である。有機物質では、その低誘電率のため室温の熱エネルギーよりも遥かに大きな電子・正孔の強束縛状態からの電荷分離過程が含まれており、その詳しい機構は未だ明らかではない。本研究課題では、有機物質における電子フォノン相互作用によるポーラロン形成および量子コヒーレンスとそのデコヒーレンスとの競合に着目し、ポーラロンの形成過程を正しく記述する量子ダイナミクス計算を行った。その結果、量子コヒーレントな超高速長距離電荷分離過程に引き続くポーラロン形成がインコヒーレントな電荷輸送への遷移を引き起こし、これにより電荷再結合を遅らせることで電荷分離状態が長時間維持される謂わば量子古典ラチェット機構が起こり得るを理論的に明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
特に、超高速で起こる長距離電荷分離反応とその再結合を防御を可能とする「量子非局在化状態とそのデコヒーレンスによるラケット効果」の解析で進展があった。
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Strategy for Future Research Activity |
1. Jennifer Ogilvie准教授(米国ミシガン大)による光化学系IIの二次元電子分光の実験データ (Fuller FD, Nature Chem. 6 , 706 (2014).) などに基づいて、初期電荷分離反応のモデル・ハミルトニアンを構築する。 2. 1.のモデルに基づき考え得る広範なパラメータ領域に対して光誘起電荷分離反応の量子ダイナミクス計算を行う。タンパク質環境が誘起する動的揺らぎが如何に電子ドナー状態と電子アクセプター状態の量子力学的非局在化効果を維持し、また、崩壊 させるのかに細心の注意を払いながら、Marcus理論では記述できないパラメータ領域で実験が示唆している数百フェムト秒の光 誘起電荷分離反応が起こり得ることを明確にする。 3. 1.と2.の解析を通して、分子シミュレーションで精査すべき箇所・現象を提案する。
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Research Products
(13 results)