2018 Fiscal Year Annual Research Report
光合成初期過程の効率性と恒常性を制御する電荷分離・再結合反応の理論研究
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17H02946
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
石崎 章仁 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 教授 (60636207)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 量子ダイナミクス / 量子もつれ光子対 / 光化学系II / 初期電荷分離 / 擬似太陽光 |
Outline of Annual Research Achievements |
緑色植物の光化学系II(PSII)反応中心は紅色細菌の反応中心と類似の色素配置を持つが、PSII反応中心の初期電荷分離過程は比較的よく理解されている紅色細菌のそれとは大きく異なることがこの20年で明らかになってきた。本研究課題では、初期電荷分離過程における色素分子の分子内振動とタンパク質環境の影響およびそれらの競合に着目し、PSIIの電荷分離の様態とそれに関与する色素分子の構造の関係性について量子動力学理論と量子化学計算を組み合わせることにより解析した。本質的な成果の一つして、全ての振動モードの寄与を考慮した場合にはPSIIの電荷分離速度に対するエネルギーギャップ依存性や温度依存性が見られなくなることを明らかにした。これは、PSIIの電荷分離過程がタンパク質環境や外界変動に対して持つ頑健性を示唆している。 天然光合成では太陽光フォトンを吸収することで種々の動的過程が引き起こされるが、光子統計など太陽光の性質は実験で用いられるレーザー光のそれとは大きく異なる。本研究課題では、太陽光を模倣する疑サーマル光源として「時間-周波数量子もつれ光子対」を用いた新規分光計測法について研究を進めた。時間-周波数量子もつれ光子対はパラメトリック下方変換(PDC)で生成されるが、光子対の一方を観測しない場合、他方の光子状態は熱放射と類似の量子状態・光子統計を示す。本年度は、特に可視光領域では太陽光すなわち温度5777Kの黒体輻射の性質を再現し得ることを理論的に示した。さらに、量子もつれ光を用いた擬似サーマル光が太陽光に近い性質を持つためのポンプ光の性質やPDCに用いる結晶長の条件を解析するとともに、そのようにして生成された擬似サーマル光と分子系との相互作用の理論を開発することに成功している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年に得た電荷分離速度に対するエネルギーギャップ非依存性や温度非依存性の計算結果は、光化学系IIの初期電荷分離過程に関する種々の分光データと辻褄の合うものであり、また、光化学系IIの初期電荷分離過程がみせる温度・外界変動に対する頑健性を示唆するものとして、意義深いものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
擬似サーマル光の時間分解制御と擬似サーマル光によって誘起された動的過程について、量子動力学および量子光学の理論に基づいて更に解析を進める。特に、パラメトリック下方変換で生成される量子もつれ光子の間の「もつれ時間」を制御することが動的過程の解析の鍵となると思われる。 さらに、時間分解制御の理論を発展させ、従来の非線形分光理論およびエネルギー移動や電荷輸送などの量子ダイナミクス理論を組み合わせることで、古典的な輻射場の扱いで現れるパラメータを補完するような,量子光に特異なパラメータを活用した新規測定手法の可能性を模索する。それによって、光化学系II反応中心における初期電荷分離反応など、従来の時間分解分光では解析が難しい系について有意な情報を取り出すことが可能かどうかを議論する。
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Research Products
(19 results)