2017 Fiscal Year Annual Research Report
Basic Research Study on Drug Delivery System Using Design and Synthesis of Two-Photon Responsive New Chromophore
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17H03022
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
安倍 学 広島大学, 理学研究科, 教授 (30273577)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 2光子吸収 / 近赤外光 / ケージド化合物 / クマリン / スチルベン |
Outline of Annual Research Achievements |
生理活性物質が生体内組織の「どの場所」で「どのように」機能するのかを明らかにする研究は,生命現象の解明に直結し,人類が直面している疾患に対する薬剤の開発に貢献でき,豊かな社会の形成とその持続的な発展に寄与する。本研究では,光化学,反応化学,合成化学,ならびに,量子化学計算に精通した基礎化学研究者により初めて可能となる「近赤外領域の2光子を効率よく吸収する新規光解離性保護基(PPG)」を開発する。細胞毒が低い近赤外領域の光を使用可能なPPGの開発は、生体試料の深部において高い解像度での生理活性物質(=薬剤)の放出を実現する。研究期間内に,ヒトの記憶と学習に関与する神経伝達物質や抗がん作用のある薬剤を特定の場所で人工的に発生させることができる治療システムの構築に寄与する基盤研究を実施する。 平成29年度は,近赤外領域に高い2光子吸収能をもつ光解離性保護基の設計を,TD-DFT法を用いる量子化学計算を援用して実施した。その計算によって申請者らが独自に見出してきたスチルベン骨格を基本とする2光子吸収発色団の骨格にさらなる改良を加え,より高い2光子吸収能を持つ発色団の設計を実施した。具体的には,一つの分子内にArA-ArD-ArAの三つの極性部位を導入し,電子遷移の際により高い双極子が生じる分子設計を行い,その設計に基づく新規 2光子解離性保護基について,TD-DFT計算を用いてその高い2光子吸収能を確かめた。その結果,近赤外領域の700 nm付近に850 GMという高い2光子吸収能を持つクマリンπ共役分子を発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,光化学,反応化学,合成化学,ならびに,量子化学計算に精通した基礎化学研究者により初めて可能となる「近赤外領域の2光子を効率よく吸収する新規光解離性保護基(PPG)」を開発する。細胞毒性が低い近赤外領域の光を使用可能なPPGの開発は、生体試料の深部において高い解像度での生理活性物質(=薬剤)の放出を実現する。研究期間内に,ヒトの記憶と学習に関与する神経伝達物質や抗がん作用のある薬剤を特定の場所で人工的に発生させることができる治療システムの構築に寄与する基盤研究を実施する予定である。平成29年度は,本研究の鍵となる,生体透過性がある近赤外領域(700-1000nm)に高い2光子吸収を持つ発色団の分子設計,合成,並びに,新規に合成した発色団の光物性の測定に成功し,極めて高いGMを有する発色団の開発に成功しており,順調に研究が進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
本基盤研究(B)では,JST-CREST研究(H22.10-H28.3)での研究成果を基盤として,細胞毒がなく生体内のより深部まで到達できる近赤外領域の光(700 nm~1050nm)を利用する光解離性保護基の新規分子設計と合成を実施し,社会の持続的な発展に寄与する基盤研究を実施することが目的である.具体的には,本研究期間の前半に,ヒトの記憶と学習機能において重要な役割を果たすとされている興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸やドーパミン,また,筋肉の収縮,細胞活動など,多くの生命現象を支えるカルシウムイオンの機能発現に関する分子論的研究を可能にする新規近赤外領域2光子光解離性保護基(NIR-TP-PPG)の設計と合成を実施する.本研究期間の後半では,前半の研究で見出したNIR-TP-PPGを次世代のドラッグデリバリーシステムへ展開する研究へと繋げる.具体的には,retinoic acidやlactacysinなどの抗がん剤をNIR-TP-PPGでケージ化し,ガン細胞に局所的に抗がん剤を供給するドラッグデリバリーシステムの構築に寄与する基盤研究を実施する予定である。今後は,平成29年度に見つかった近赤外領域に極めて高い2光子吸収能を持つ発色団を用いて,生理活性物質のケージングと脱ケージング反応を展開する。
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