2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17H03061
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
山田 徹 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (40296752)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | マイクロ波 / 選択的合成 / 不斉合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年8月に本研究計画推進に当たり最も重要な装置として,東京理化器械社製マイクロ波合成装置を導入した。この装置は旧来のマグネトロン発振ではなく半導体発振器を用いるため,厳密な周波数制御のほか,出力制御が高出力パルスのON/OFF制御の平均値ではなく連続制御方式であること,透過マイクロ波エネルギーの測定から反応系に供給されたマイクロ波エネルギーの算出が可能,冷却併用による反応温度の制御が可能など,マイクロ波特異効果の実証実験研究に最適の装置であることを期待した。導入後,冷却併用による反応温度の制御条件運転で,マイクロ波出力と冷却冷媒温度のバランスが特異効果発現の程度に大きく影響していることが明らかとなり,反応基質ないし反応溶媒とマイクロ波出力,冷却効果の相互関連を調べるモデル反応系における実験を追加で実施する必要が生じた。装置運転条件の整備に関する予備的検討の結果,装置性能を十分に活用できるに至った。 円偏波マイクロ波による絶対不斉合成の検証テーマでは,富士電波工機社製のスパイラルアンテナによる円偏波発生装置を整備した。電波法の制約から,最大で出力は20 Wとし,周囲に電波漏洩防護布による簡易テントを設置した。また,円偏波の擾乱を抑制するため,反応容器は底面が平坦なガラス製フラスコを作製し,ガラス製の撹拌棒をフレキシブルジョイントで遠隔的に撹拌モーターに接続し,マイクロ波は反応容器底面から照射することとした。検討当初に観測される不斉収率は極めて小さいことが予想されるため,キラルカラムを装着したHPLC分析条件を整備することとした。この上で,絶対不斉合成の実現が期待される反応系について,照射条件で検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
導入装置の運転条件の検討の結果,安定した実験データの取得が可能になった。マイクロ波照射併用条件ではこれまでにマグネトロン式発振装置による触媒的不斉合成反応に対する適用において,不斉収率に影響を与えず反応速度が大幅に向上する効果が複数の反応系で観測されたことを報告した。また,アトロプ軸不斉化合物のラセミ化の半減期がマイクロ波照射併用で短縮されること,この効果は低温条件ほど顕著であることを示した。以上のことから,マイクロ波照射による反応加速は,反応基質分子の配座平衡の活性化に起因し,単位時間当たりの反応至適構造の出現頻度の向上がもたらす,という作業仮説に基づいて検討を行ってきた結果,コニア-エン反応と閉環メタセシス反応において,マイクロ波照射併用による反応加速が観測されることを報告した。報告者の研究室では別テーマで,脱炭酸工程を駆動力とする立体特異的ナザロフ環化反応を報告した。この反応でも環化過程は配座平衡により,反応点の接近が反応速度を支配すると考えられるため,温度制御条件ではマイクロ波照射により反応速度の向上が期待できるものと考え検討を開始した。現在,この反応系において,マイクロ波特異効果の観測を示すデータが得られつつある。一方別テーマで,炭素-炭素三重結合が銀触媒に活性化され,環化反応を促進することを見出し,これまでに二酸化炭素の捕捉を伴う複素環化合物の合成法を報告した。この反応でも環化過程は配座平衡に支配されると考えられることから,関連反応に関する予備検討を開始した。 円偏波マイクロ波を利用する不斉合成反応の開発では,アトロプ軸不斉を有するビアリールラクトン類の還元的開環反応をモデルとし,マイクロ波照射の影響を検討した。
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Strategy for Future Research Activity |
マイクロ波特異効果の検証テーマでは,精密な温度制御条件下のマイクロ波照射併用による環化反応における反応加速を詳細に検討する。本年度の予備的検討に基づき,ナザロフ環化反応,アルキニルアニリン誘導体の金属触媒による環化反応をモデル反応系とする。本プロジェクトで新規導入したマイクロ波合成装置の性能を最大限活用し,精密な温度制御条件において,照射マイクロ波の出力管理,反応系への供給エネルギーのモニターに基づき,複数の環化反応系においてマイクロ波特異効果の実証データを積み上げていく予定である。 また,マイクロ波特異効果の理論的な裏付データの取得も試みることとする。すなわち,マイクロ波特異効果発現の作業仮説:反応基質の配座活性化の検証では,特に配座平衡に関与すると考えられるテラヘルツ領域のスペクトル測定によりギガヘルツ帯照射下のアトロプ軸不斉の振動観測の可能性を探る。 円偏波マイクロ波を利用する不斉合成反応の開発では,反応結果の解析に不可欠な光学純度測定の精密化に取り組む。これまでは,多数回実験の統計処理に実験値の有為性を求めてきたが,これに加えて,より精度の高い測定値の取得も目指す。そのうえで,軸不斉化合物の反応を中心に適用反応の探索を継続する。また,スパイラルアンテナにより発生する円偏波の精度,平面性,指向性等の電波特性を測定することにより,これまで試行錯誤的に行ってきた反応条件の設定を合理化する試みを開始する。
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Research Products
(8 results)