2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17H03061
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
山田 徹 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (40296752)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | マイクロ波 / 選択的合成 / 不斉合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
マイクロ波照射併用による反応加速の実証では,ナザロフ環化反応において興味深いデータが得られた。すなわち,前年度の装置の運転条件の検討において,反応系の温度制御の精密化には,マイクロ波出力と冷却温度のバランスが重要であることが明らかにされた。この結果に基づき,ナザロフ環化反応の反応速度と照射マイクロ波出力の相関を調べたところ,一定の範囲内でマイクロ波出力の増大に伴い,反応速度の向上が観測された。また,アルキニルアニリンの環化反応では,銅触媒による環化反応がマイクロ波で加速されるという報告に基づき,温度管理条件でマイクロ波照射を併用させたところ,環化反応が加速される結果を得た。いずれの検討も現在,詳細なデータの解析を行っている。 理論的な検証においては,アトロプ軸不斉化合物の振動数を詳細に検討したところ,ビアリール環の結合軸に関する回転振動数が50 cm(-1)付近に観測されることが予想される。現在,2.45 GHzマイクロ波の照射下でのテラヘルツ分光について,外部研究者と可能性について具体的な議論が始まったところである。 円偏波マイクロ波の利用実験では,微少な光学純度の測定条件が確立した。これまでは,ラセミ体の分析においても多数回測定の統計処理によらなければゼロにならなかった結果が改善された。 また,スパイラルアンテナにより発生する円偏波マイクロ波の指向性,偏波度などの電波特性の測定に関して,測定用アンテナが入手できたことから,外部研究者との共同により測定に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
温度制御可能なマイクロ波合成装置では,反応容器がアルミブロックにより冷却されることで除熱され,反応系内部の温度が一定に維持される。マイクロ波出力により冷却設定温度を調整することにより目的の温度設定が可能になる。すなわち,冷却温度を下げることにより照射マイクロ波出力を上げることができる。反応系は十分な速度で撹拌しているため,反応系内の温度勾配はないものと考えている。この条件で,ナザロフ環化反応を行うと,マイクロ波出力が大きいほど同一反応時間における化学収率が向上することを見出した。この相関が観測される出力には一定の範囲があるが,現在,反応系への供給エネルギーとの相関に関して検討中である。アルキニルアニリンの銅触媒による環化反応のマイクロ波照射による加速効果の観測では,参考にした原報ではアセトニトリルなどの極性溶媒を使用しているため,溶媒加熱による熱的効果との切り分けが明確ではなかった。報告者の研究グループで開発された銀触媒による同様の反応の結果も踏まえ,触媒となる金属塩の種類と非極性溶媒の使用について検討を行った結果,マイクロ波効果が観測されたと考えうる結果が得られた。アトロプ軸不斉化合物の振動スペクトルについてDFT計算を行ったところ,ビアリール環の結合軸に関する回転振動数が50 cm(-1)付近に観測されることが予想された。テラヘルツ分光は特に水などの夾雑化合物に影響されやすくこれまで測定は困難とされてきたが,最近測定法が改良され,利用可能な分光法となりつつある。現在,ビームラインを利用するテラヘルツ分光に関して研究共同の可能性を具体的に議論を開始した。スパイラルアンテナによる円偏波の電波特性の測定では,新たに入手した測定用アンテナを用いた予備的検討(研究共同)により,指向性,平面性,偏波度などの特性が測定できることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
ナザロフ環化反応における照射マイクロ波出力と反応速度の関係について詳細な検討を継続する。使用中の反応装置は,反応系を透過したマイクロ波の強度を連続測定可能であるので,反応系への供給エネルギーが反応速度と相関があることを確認する。アルキニルアニリンの環化反応をモデルにする加速効果の検討では,反応を経時的に追跡することにより,加速効果を明確に示すことができると考えている。テラヘルツ分光による分子の配座平衡の活性化の測定の研究共同も推進する。マイクロ波(ギガヘルツ)によりテラヘルツ帯の分子運動が活性化されることが観測できれば,これまで作業仮説に過ぎなかった,マイクロ波特異効果の解釈に新たな論拠を提供することができる。 円偏波を利用する絶対不斉合成反応の開発テーマでは,偏波度,指向性,平面性の検証に基づき,有効な照射距離を設定する。具体的には波長に関して強度もしくは偏波度に周期性があることが懸念されるため,これを電波特性の測定から最適な照射条件を設定できるものと考えている。モデル反応系は、アトロプ軸不斉に関する反応系を想定しているが,20 Wレベルでは影響が微少であることが予想されるため,光学純度の精密測定条件を適用し,円偏波による不斉誘起の実証を目指す。共同研究先では電波法の規制限界の50 W装置が利用可能であること、さらに電波暗室の借用によりさらに大出力の円偏波による不斉誘起の検証への発展も視野に入れている。 以上の検討を通して,マイクロ波効果が単純な熱的効果ではないことを実証し,さらに実用的な有機合成反応への展開を目指す。
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Research Products
(6 results)