2017 Fiscal Year Annual Research Report
空間位相変調型近赤外光音響イメージング装置の開発と医療診断機器への展開
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17H03082
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
由井 宏治 東京理科大学, 理学部第一部化学科, 教授 (20313017)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伴野 元洋 東京理科大学, 理学部第一部化学科, 講師 (40432570)
森作 俊紀 東京理科大学, 研究推進機構総合研究院, 助教 (00468521)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 光音響 / 空間位相変調技術 / 近赤外光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、光音響信号から粘弾性情報を抽出する解析方法を検討するため、まず系統的に弾性を変えた試験試料からの光音響信号波形を計測し、弾性による波形の違いを観測した。試験試料として、濃度を変えることで弾性を系統的に調整可能なアガロースゲルを用いた。また光音響信号の発信源として、将来の重要な計測対象として想定している血液の模倣材料であるヘモグロビン水溶液を、アガロースゲル内に注入した。ヘモグロビンの光励起によって発生した光音響信号の波形を計測した結果、信号が極大値から極小値へと推移する際の速度が、アガロースゲルの弾性が高い程、単調に高くなることを見出した。この結果は当初に想定した通り、光音響信号の時間波形が試料の粘弾性を反映することを示している。このように光音響分光法が、非接触で埋もれた組織の粘弾性を計測する手法として有用であることを実証した。 また、光音響過程励起用のレーザー光を、試料深部により理想的に集光するための補償光学系を検討した。試料深部を計測対象とする場合、光がその対象部位に到達するまでの間に通過する試料層の屈折率不均一性によって波面が乱されてしまい、焦点が空間的に広がってしまう。この焦点の広がりによって、空間分解能の低下と信号強度の減少が起こる。補償光学系とは、試料への集光前のレーザーに、あらかじめこの波面乱れと逆位相の波面形状を付与することで、試料の屈折率不均一性によって生じてしまう波面乱れをキャンセルする方法であり、これらの問題点解決手段として採用した。本年度は、レーザー分光装置に空間光位相変調器を組み込むハード面と、遺伝的アルゴリズムに基づいて波面を最適化する基本プログラムを作成するソフト面で開発を行い、補償光学系の基礎を完成させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請段階では、研究初年度の目標として、光音響信号の波形解析によって粘弾性情報を取得する方法論の確立と、波面整形による散乱体深部への効率的集光アルゴリズムの開発を掲げていた。前者に関しては、弾性をシステマチックに変えた生体模倣試料に対して光音響信号の計測と、計測された光音響信号の波形における、膨張後の収縮時間が弾性を反映するパラメータであることを、実験的に見出している。後者に関しては、波面整形を行うためのハード面の開発である分光装置への空間光位相変調器の組み込みと、ソフト面の開発である遺伝的アルゴリズムに基づいた最適化された波面への整形プログラム作成が終了しており、システムの基本形が完成している。このように、研究初年度の当初目的をおおむね達成したことから、「おおむね順調に進展している」と進捗状況を評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はまず、前年度に引き続き、病理組織を模倣したファントム試料の深部から、光吸収信号と弾性的性質を同時にイメージング可能な装置を開発する。研究の開始時点では、超音波信号を多チャンネルで検出可能なフェーズドアレイと、得た光音響信号から画像を構築するアルゴリズムとの組み合わせで光音響イメージングを行うことを計画していた。ところが、フェーズドアレイ検出器では超音波信号の強度のみで時間波形を計測できず、対象部位の粘弾性計測が困難であった。そこで、超音波検出器の素子を円環状とすることで、試料中の一点から発生した超音波を効率よく捕集できるようにし、さらにその中心部から光音響過程励起用レーザー光の入射を可能とする検出器を独自に設計、特注した。今後は、この円環状超音波検出器を用いて、ファントム試料深部の対象からの光音響信号を高い信号雑音比で計測する。このとき、ファントム試料内部に埋め込んだ計測対象部分の粘弾性的性質を系統的に変化させつつ、それに伴う光音響信号波形の変化を計測することで、光音響信号から対象の粘弾性を計測する方法論を確立し、さらに粘弾性既知のファントム試料を用いることで、定量計測のための検量線を作成する。 またこれまでの研究で、光音響過程励起用のレーザー光を、試料深部により理想的に集光するための補償光学系を検討した。具体的には、補償光学系駆動のための遺伝的アルゴリズムに基づいた基本プログラムを完成させた。一方で、現状のアルゴリズムには、条件の最適化に1時間程度の時間を要する、信号が微弱な際には集光効率化できない、などの改善を要する点が存在する。今後はこれらの問題点を解消するため、ファントム試験試料の計測を行いつつ、アルゴリズムを改善していく。
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