2018 Fiscal Year Annual Research Report
Development of Robot Crystals freely moving by heat and light
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17H03107
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
小島 秀子 早稲田大学, ナノ・ライフ創新研究機構, その他(招聘研究員) (20304644)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ロボット結晶 / メカニカル結晶 / 光トリガー相転移 / 光熱効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
光や熱などの外部刺激によってメカニカルに動く材料は、ソフトロボットなどへの応用が期待されている。私達は10年前から光を当てると曲がる種々のメカニカル結晶を開発してきた。このようなメカニカル結晶を実用化するに当たっては、屈曲だけでなく多様な動き方をする結晶が必要となる。しかし、メカニカル結晶の開発研究が盛んになった現在においても、屈曲・伸縮といったその場での運動がほとんどで、結晶を別の場所に移動させることは実現できていなかった。私達はキラルアゾベンゼン結晶を相転移温度の145℃前後で加熱冷却を繰り返すと、屈曲を繰り返しながら基板の上を移動するロボット結晶を開発した。しかし実用化に当たっては145℃の相転移温度は高すぎるため、もう少し低い温度で相転移する結晶を探索と創製を検討した結果、40℃で単結晶-単結晶相転移するキラルサリチリデンナフチルエチルアミン結晶を創製できた。この結晶に光照射すると、相転移温度以下であっても相転移するという、結晶の全く新しい「光トリガー相転移」現象を発見した。板状結晶への紫外光照射により、最初に光トリガー相転移により光源から遠ざかる方向に屈曲し、次に光異性化により光源に向かって屈曲する2段階屈曲に成功した。このように、最初は光異性化による屈曲のみであったが、熱相転移による移動、光トリガー相転移による2段階屈曲と、結晶の動きの多様化が進展しつつある。 本年度は、最初に光トリガー相転移現象の発現機構の解明を行い、次いで新たな光トリガー相転移結晶の探索と創製を検討した。その結果、光トリガー相転移の機構を解明することができた。また、別の新たなリガー相転移結晶も見出すことができ、光トリガー相転移現象は一般化できることを明らかにした。さらに、当初予想していなかった、光熱効果によって結晶が屈曲することを発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
光トリガー相転移現象の発現機構の解明:最初に見出したキラルサリチリデンナフチルアミン結晶は、光照射によりenol-keto光異性化を示し、且つ40℃で低温相から高温相へと単結晶状態を保持したまま熱相転移する結晶である。驚いたことに、この結晶に外光を照射すると、マイナス50℃の非常に低い温度から本来の相転移点40℃までの広い温度範囲にわたって、熱相転移と同様の相転移を起こすという、結晶の全く新しい「光トリガー相転移」現象を見いだした。DFT計算の結果、trans-keto光異性化体のコンフォメーションは、出発物質のenol体と大きく異なっていることがわかった。このことより、結晶の照射表面でtrans-keto体が生成すると局所的な歪みが生じ、これが引き金となって周りのenol分子がドミノ倒しのように動き、結晶全体が高温相に相転移すると説明できた。しかし、光トリガー相転移現象を定量的に理解するには、結晶の機械的特性について評価する必要があるため、現在装置を導入して測定を進めているところである。 新規光トリガー相転移結晶の開発:キラルサリチリデンフェニルエチルアミン結晶は、光異性化を示し、3 ℃で低温相から高温相へと熱相転移することを私達は既に報告している。今回、この結晶に紫外光を照射すると3 ℃よりも低い-30 ℃から-10 ℃の温度範囲で光トリガー相転移することがわかり、光トリガー相転移現象は一般化できることが実証された。 光熱効果による結晶の屈曲の発見:さらに別の結晶も見出すべく種々のサリチリデンアニリン誘導体結晶を実際に作製して調べた結果、p-ベンゾイル基を導入したサリチリデンアニリン結晶は光異性化も相転移も示したが、光トリガー相転移は示さなかった。しかし驚いたことに、この結晶に光照射すると、光熱効果によって素早く屈曲することを発見した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究を継続しつつ、新たに見出した光熱効果による結晶の屈曲機構の解明を最優先課題として研究を推進する。これまで開発してきたメカニカル結晶の駆動源は、大部分が光異性化に基づいており、相転移、光トリガー相転移も少し用いられてきた。しかし、光異性化、相転移が起きる結晶は限られているのが難点であった。これに対して、光熱効果は物質の光励起により熱が発生する現象であり、光を吸収するほとんど全ての物質は固有の光熱効果を示すため、光熱効果を用いれば光異性化、相転移では望めなかった多種多様なメカニカル結晶を開発できる可能性がある。また、光異性化では厚さ十マイクロメーター程度の薄い結晶しか屈曲しないが、光熱効果によれば厚さ数百マイクロメーター以上の分厚い結晶でも屈曲する利点がある。また、光熱効果は光化学初期過程の現象であり、光異性化よりも速度が速いため、光熱効果による方が光異性化によるよりも結晶の動きが速い。このため機構を解明した後は、結晶ロボットを作製する上で重要と考えられる新たな検討項目として、光熱効果によって動く新規結晶の探索と創製を行う。 次いで、光異性化や相転移と光熱効果による複合的な動きの創出について検討する。また、移動、回転など、屈曲以外の多様な運動の創出について検討する。最終的に、光と熱の複合刺激によって移動の速さや方向を制御し、自在に動き回るメカニカル結晶を実現する。また、熱と光の刺激によって様々なメカニカル特性を発現する結晶を組み合わせて、熱と光の複合刺激によって自在に動き回る結晶ロボットの作製を試みる。
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Research Products
(35 results)