2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17H03117
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
吉澤 一成 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (30273486)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 接着 / 量子化学 / エポキシ樹脂 / 計算化学 / 界面科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
接着メカニズム解明に向けた分子レベルでのエポキシ樹脂の化学的性質の把握のため、今年度は被着材の種類を変えた場合の接着相互作用エネルギーの理論的解析をDFT計算を用いて行った。特に、シリカやアルミナを表面とした場合にその表面に形成される数分子程度の厚みの水分子層を考慮したより現実的なモデルに基づく解析により、吸着水分子がエポキシ樹脂/被着材の接着に与える影響を定量的に論じた。水分子層を考慮した系における温度の影響についても分子動力学計算を用いた解析手法を確立中であり、引き続き検討を継続する。 また、グラファイトと六方晶窒化ホウ素それぞれの表面における接着相互作用エネルギーについてもDFT計算による解析を行った。グラファイトと六方晶窒化ホウ素の結晶構造はよく似ているが、グラファイトが導電性である一方で窒化ホウ素は絶縁体である。これらの表面とエポキシ樹脂との相互作用エネルギーの解析結果を比較することで、原子・分子レベルでのエポキシ樹脂/被着材間の相互作用の特徴について明らかにした。 さらに、硬化剤を含むエポキシ樹脂と金表面との系において、DFTによって計算した接着相互作用エネルギーを静電相互作用、電荷移動相互作用等の各成分に分割する解析を行うことによって、硬化剤の官能基も接着力の増大に寄与している可能性があることが示唆された。樹脂の硬化という目的だけでなく接着力への寄与も見て硬化剤を選択するという観点が得られたのは、最適な接着剤材料設計において重要な点である。この項目についても引き続き検討を継続中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度はエポキシ樹脂を対象とした第一原理計算による接着力の理論的解析について、計算手法及び解析手法の確立、被着材の種類を変えた場合の接着相互作用エネルギーの理論的解析をDFT計算を用いて行った。 被着材表面の吸着水が接着力低下の原因である理由について、被着材と接着剤との間の狭い空間に存在する水分子の水素結合ネットワークの構造緩和が影響していることを明らかにし、定量的に論じることができた点は大きな成果である。この結果は国際学術誌で論文2報を発表済みである。また、結晶構造は似ているが電気的性質の異なるグラファイトと六方晶窒化ホウ素それぞれの表面における接着相互作用エネルギーについてもDFT計算による解析を行い、いずれの表面においても分散力が接着相互作用エネルギーに大きく寄与していることを明らかにした。電気的性質による差異が見られないことに関しても電子局在関数(ELF)に基づく解析により理論づけることができ、国際学術誌において論文発表した。さらに、硬化剤を含むエポキシ樹脂と金表面との系において、DFTによって計算した接着相互作用エネルギーを静電相互作用、電荷移動相互作用等の各成分に分割する解析を行うことによって、硬化剤の官能基であるシアノ基が表面の金原子との間で電荷移動型結合を形成しており、これが接着力の増大に寄与している可能性があることが示唆された。樹脂の硬化という目的だけでなく接着力への寄与も見て硬化剤を選択するという観点が得られたのは当初の計画にはなかった思わぬ成果であり、最適な接着剤材料設計において重要な点であると考えられる。 以上のように、接着に関与する相互作用を量子力学的に解析した上で、材料のどのような化学的性質が接着力の増大あるいは低下に関与しているかを定量的に明らかにできたという点で、今年度の研究成果は当初の計画以上のものであると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在の計算モデルでは、実際は高分子であるエポキシ樹脂を、モノマーやダイマー、あるいはフラグメントモデルとして取り扱っている。フラグメントモデルの計算は分子論的アプローチによる接着相互作用の基礎的な理解には非に有用であるが、現実の材料の構造や物性との相関も合わせて理論解析をより深化させるためには、小規模計算における計算モデルの適切かつ効率的な構築が必要である。この課題への対応として、ケモインフォマティクスの手法を取り入れる。ケモインフォマティクスの手法により理論計算でモデル化すべき要因を実際の実験データから抽出することで、より現実に即したモデルを構築し、理論計算による接着メカニズムの解明、さらには非経験的な物性予測を目指す。 以上のように小規模モデルにおける計算モデルの改良を行うと同時に、より現実の系に近づけた大規模モデルを用いて接着界面における水の影響、特に温度の影響についての理論的解析も行っていく。また、現実の接着現象においては水分子の影響に限らず、材料表面の凹凸、接着剤の濡れの不完全性、接着剤の乾固に起因する内部応力など、接着強度を低下させる種々の要因が存在しており、これらの影響を計算モデルに取り込むためにも大規模なモデル系の構築が必要となる。近年の計算機性能の向上や大規模計算を指向した計算理論の発展などにより大規模モデルでの計算も可能になりつつあるため、それらを十分に活用した上で、接着現象の原理解明を目指した計算モデルを構築し、最適な接着剤及び被着材の材料設計に寄与する。
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