2017 Fiscal Year Annual Research Report
熱的制御から実現する高効率な光アップコンバージョン有機分子膜の創製
Project/Area Number |
17H03183
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
村上 陽一 東京工業大学, 工学院, 准教授 (80526442)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | ナノ・マイクロ熱工学 / 有機薄膜創製の分子熱工学 / 分子エネルギー工学 / 発光スペクトル制御 / スピン三重項状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,太陽電池などの光エネルギー変換系で,現在利用されず損失となっている低エネルギーの光子群(長波長の光)を,利用可能なより高エネルギーの光子群(短波長の光)に変換する「光アップコンバージョン(UC)」に関する.UCとは太陽光スペクトルで未利用な長波長部分を,変換に利用可能な短波長光に変換する技術であり,幅広い光変換技術に対して光エネルギーの利用効率を高められる意義を持つ.本研究では特に,有機分子間のエネルギー移動を用いるUCに関し,その応用に適する形態である有機固体分子膜の創製を狙っている.高効率なUCが固体膜の形態で可能となれば,UCの応用実現を大きく前進させる意義を持つ. 高効率なUCには材料中での三重項状態(二つの電子スピンが平行に相関する分子の励起状態;比較的長い励起状態寿命をもつ)の長距離移動が必要だが,一般的な分子蒸着法で得られる凝集分子膜では発光効率が低く,基底状態への失活レートが高いため,これが行えない問題がある.本研究は,分子スケール熱工学の観点から,積極的な熱的制御によって成す物質・反応の準平衡を活用することで,上記目的に適する有機固体分子膜を創出することを目的としている.具体的に,生成の諸条件と,得られた分子固体の微視的構造および発光特性との相関を明らかにし,高い光機能をもつ有機分子固体創製の学術に貢献するとともに,UCの応用実現に道を拓くことを目的としている. 本年度(研究期間の初年度)に得られた成果の概要は以下の通り. (1)上記目的の有機分子固体膜を創製するための装置系の開発・製作を行い,それらを用いた実験を行い,発光機能を有する生成物を得た. (2)考案・選定した原料分子と上記実験装置を用いて生成した有機分子固体について,発光特性と相変化温度等の熱的諸特性を明らかにした. (3)本研究の予備検討および冒頭部分にあたる成果を国内学会で発表,公表した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度である本年度は,応募時の研究計画調書に記載した二つの柱,すなわち,(i)発光分子とその凝集を制御するスペーサー分子とを複合化する準平衡下での固体分子膜創製,および(ii)準平衡下での共有結合性有機構造体(COF)の合成による新規光機能材料の創製,について研究を実施し,以下のような順調な進捗を得ている. 【(i)・ (ii)に共通の進捗】 本研究の狙いである「積極的な熱的制御によって成す物質および反応の準平衡を活用」する独自設計の装置系を用いて実験に着手した.それぞれについて生成物が得られ,その特性評価から幾つかの基礎的知見を獲得した. 【(i)の進捗】開発した装置系を用いて,考案した様々な発光分子とスペーサー分子との組み合わせについて複合分子膜創製の試行を精力的に探索し,狙い通り,発光効率を著しく高められる組み合わせを見出すことに成功した.また,示差走査熱量計測によって生成物の熱的諸性質を明らかにし,その結果に対して熱力学の理論を用いて説明・解釈することに成功した.一方,その根本的な原因,特に分子レベルの微視構造との関係が未解明であり,今後の課題である. 【(ii)の進捗状況】独自設計の水熱合成装置を使用して,独自に開発した青色発光部位を有する芳香族分子をブロック分子としたCOF生成の探究実験を精力的に行った.溶媒種類や温度等の水熱合成条件探索を行った結果,COFと推定される固相生成物を得ることに成功した.一部の生成物ではX線回折から長期周期構造の出現を示唆する結果が得られた.しかし発光量子効率は低い値であり,これは恐らく当初考えたよりも二次元的な層間相互作用が強い(凝集による濃度消光が影響している)ことが原因と推測しており,今後その根本的な解決が必要となっている.また,生成物の熱安定性が未解明であり,今後,生成物の熱安定性を結晶性との関係から解明・理解してゆく必要がある.
|
Strategy for Future Research Activity |
上記「現在までの進捗状況」で述べた進捗と課題を踏まえ,今後の研究の推進方策は以下の通り. 【(i)について】上記のように,独自に考案した様々な発光分子+スペーサー分子との組み合わせの試行から,狙い通り,発光効率が著しく上昇しかつ発光分子間の相互作用を低下させられている組み合わせを見出すことに成功している.さらなる探索は今後も継続する計画である.しかし,その成功したことの根本的原因,特に分子レベルの微視構造との関係がまだ理解できていない.今後,本研究で考案した方法論を一般化してゆく際に,この点の理解は,学術への貢献の面からも必要である.具体的に,X線構造解析の技術向上と結果解釈は今後の課題となっている.今後,微視的構造を明らかにした上,解釈を行い,それとの相関を明らかにすることが今後きわめて重要となる.このために,今後は,最適条件の探索は引き続き精力的に行いつつ,X線構造解析の知識と技術を向上させ,それを本研究に反映させてゆく計画である. 【(ii)について】 上述のように,初年度の研究から目的達成に足がかりとなる生成物が得られており,おおむね期待通りの進捗が得られている.しかし,微視的構造の解析を粉末X線回折に頼っており,X線回折はほぼ本課題の採択とともに始めたことから,その解釈が十分でない.今後の研究では,生成物の微視構造を明らかにしてゆくこと,熱的安定性を明らかにすること,そして,両者の相関を明らかにすることが重要である.生成物の理解と応用可能性の議論には熱安定性の知見が必要であるためである.熱安定性の測定と解明には,次年度(H30年度)に,当初の研究計画調書に記載の通り,示差熱-熱重量天秤(TG-DTA)を導入することにより推進してゆく.微視的構造の解明と理解には,X線構造回折の知識と能力を向上させつつ,構造シミュレーションソフトウェアなどを活用してゆく計画である.
|
Research Products
(2 results)