2018 Fiscal Year Annual Research Report
結晶化抑制分子の選択的吸着による臭化リチウム水和物結晶の粗大化及び成長抑制
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17H03187
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
稲田 孝明 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 研究グループ長 (60356491)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 熱工学 / 結晶成長 / 吸収冷凍機 / 臭化リチウム / 合成高分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
臭化リチウム(LiBr)水溶液を吸収液とした吸収冷凍機は、未利用排熱の有効利用が可能な機器として期待されている。しかし現状では、LiBr水溶液中に析出するLiBr水和物結晶により運転条件が制限されるため、十分な性能を発揮できていない。本研究では、LiBr水和物の結晶面に選択的に吸着して、非平衡状態のまま水溶液中で結晶の粗大化や成長を抑制する結晶化抑制分子を探索し、その効果を実験的に評価することを目的としている。今年度は、LiBr水和物結晶の粗大化抑制を定量的に評価し、結晶化抑制分子の絞り込みを行った。さらに、LiBr水和物結晶の成長抑制効果の定量的な評価方法を検討した。 粗大化抑制の効果は、一定温度に維持したLiBr水溶液中で、LiBr水和物結晶のサイズ分布の時間変化を測定することで評価した。まず62.8wt% の濃度に調整した30gのLiBr水溶液に、結晶化抑制分子の候補を0.001~0.1wt% の濃度で溶解し、これを平衡結晶化温度より15℃低い温度に冷却してLiBr水和物(二水和物)結晶を析出させた。その後、評価に適した初期結晶サイズ(約0.08mm)を実現し、初期のLiBr水溶液濃度における平衡結晶化温度より10℃低い温度で7週間保存した。その間、数μL程度の試料をサンプリングし、LiBr水和物結晶のサイズ分布変化を測定した。その結果、ポリビニルアルコール(PVA)とポリビニルピロリドン(PVP)の二種類の合成高分子が、水和物結晶の粗大化抑制に顕著な効果を持つことを確認した。 さらにPVA、PVPによる水和物結晶の成長抑制効果を評価するために、0.1mm以下の大きさに制御した単独のLiBr水和物単結晶の観察を行い、結晶成長速度を求める評価手法を検討した。その結果、試料温度を精密に制御した顕微鏡下で、結晶面ごとの成長速度を評価することが可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、LiBr水和物結晶の粗大化抑制に効果のある結晶化抑制分子の絞り込みと、それらの結晶成長抑制効果の測定に着手することを計画していた。 結晶化抑制分子の候補として、複数種のタンパク質、合成高分子、界面活性剤による粗大化抑制を定量的に評価した。その結果、二種類の合成高分子(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン)を結晶化抑制分子として絞り込むことができた。氷結晶の成長抑制に対して絶大な効果を持つ不凍タンパク質についても評価を行ったが、LiBr水和物結晶に対してはまったく効果がないことも確認できた。現在は、粗大化抑制効果の定量評価をほぼ完了し、結晶成長抑制効果の評価に着手している。ここでは、精密に温度制御された環境下で、単独の単結晶を用いて異なる結晶面ごとに成長過程を観察し、成長速度を評価する必要がある。おおむね測定手法は確立してきたが、観察中に単結晶が回転してしまう問題があり、精密な成長速度の測定の妨げとなっている。現在、この問題を解決すべく、測定手法の改良に取り組んでいる。 以上のように、当初の計画通りに粗大化抑制の定量評価が完了し、結晶化抑制分子の絞り込みを行うことができた。また、結晶成長抑制の評価についても、測定手法に若干の課題は残されているものの、ほぼ当初の計画通りに進んでいる。以上総じて、おおむね順調に研究が進展していると自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究がおおむね計画通りに進展したため、来年度も当初の計画通り研究を推進する予定である。まずは今年度に引き続いて、LiBr水和物結晶の成長抑制を評価するための測定手法を検討する。その後、今年度までに絞り込んだ二種類の結晶成長抑制物質を用いて、水和物結晶面ごとに結晶成長抑制効果を評価し、測定結果に基づいて成長抑制の機序について考察する。 結晶成長抑制効果の測定では、0.1mm以下の大きさのLiBr水和物単結晶を用いて、精密に温度制御されたLiBr水溶液中で光学顕微鏡観察を行い、結晶面ごとに成長速度を求めて結晶化抑制物質の効果を評価する。観察を容易にするため、62.8wt%の濃度に調整した数μLのLiBr水溶液試料を二枚のカバーガラスで挟み込み、グリースでシールしてから温度制御可能な銅製のセル内に設置する。試料を冷却すると過冷却状態を経てLiBr水和物結晶の核生成が起こり、水溶液中に多数の水和物結晶が生成・成長する。これを平衡結晶化温度付近まで昇温し、徐々に結晶を溶解して、最終的に大きさ0.1mm以下のLiBr水和物単結晶を観察視野内に一つだけ残し、さらにその結晶の向きを固定する(固定方法は検討中)。その後、試料温度を精密に制御しながらステップ的に下げていく。各温度条件で異なる結晶面ごとに成長の有無を確認し、結晶成長する面が存在する場合にはその成長速度を測定していく予定である。 今回の測定対象としてるLiBr二水和物結晶は、成長時にファセットの出現が確認されており、その分子的に平坦な結晶面での成長機構は、二次元核生成成長か、らせん転移を起点とした渦巻成長が支配的であると考えられる。この結晶成長機構と、結晶成長抑制分子の結晶面への吸着とを合わせて考察し、成長抑制効果の機序を解明につなげていく予定である。
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Research Products
(3 results)