2017 Fiscal Year Annual Research Report
スピン軌道トルクによるハーフメタル強磁性体磁化制御とそのデバイス応用
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17H03225
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
植村 哲也 北海道大学, 情報科学研究科, 教授 (20344476)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
近藤 憲治 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (50360946)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | スピン軌道相互作用 / ハーフメタル強磁性体 / スピン軌道トルク / 強磁性トンネル接合 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,スピン軌道相互作用の大きい非磁性層と,スピン偏極率が本質的に100%となるハーフメタル強磁性体からなる積層構造において生じるスピン軌道トルク(スピン軌道相互作用によって生じるスピン流が磁化に及ぼすトルク)(SOT)を利用した,ハーフメタル強磁性体磁化制御技術を確立し,高速性・低消費電力性に優れた新規スピントロニクスデバイスを実現することである.具体的には,優れたハーフメタル性が実証されているCo基ホイスラー合金を電極とした強磁性トンネル接合(MTJ)と強いスピン軌道相互作用を有する非磁性材料を組み合わせた,新規磁気抵抗素子ならびに高周波自励発振デバイスを開拓する.また,ハーフメタル強磁性体における伝導電子と局在電子スピン(磁化)間に働く相互作用や磁化ダイナミクスに関する学理を解明し,スピントルクに対するスピン軌道相互作用の効果を詳細に明らかにする. H29年度は,強いスピン軌道相互作用が発現するCo基ホイスラー合金/非磁性層ヘテロ構造の探索と,SOTを用いたCo基ホイスラー合金の磁化制御手法の確立を理論および実験の両面から進めた.Co基ホイスラー合金としては,これまでMTJや半導体スピン注入の研究で実績のあるCo2MnSiを用い,非磁性層としては半導体のGaAsや重金属のTaを用いた.SOT磁化反転の評価は,MTJのトンネル磁気抵抗測定により行うため,Co基ホイスラー合金/非磁性体ヘテロ構造をMTJの中に組み込んだ3端子型MTJのプロトタイプを試作し,その基本特性を評価した.その結果,Co2MnSi/Ta接合を有するMTJにおいてSOT磁化反転を示唆する抵抗変化を観測した.また,スピン軌道トルク下で磁化の歳差運動が持続する条件をシミュレーションにより明らかにし,高周波自励発振デバイス実現に向けての基盤技術を開発した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Co基ホイスラー合金/非磁性体ヘテロ構造をMTJの中に組み込んだ3端子型MTJのプロトタイプを試作し,SOT磁化反転を示唆する抵抗変化を観測できたことから,初年度の目標は概ね達成した.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に引き続き,強いスピン軌道相互作用が発現するCo基ホイスラー合金/非磁性層ヘテロ構造の探索と,SOT磁化反転を利用した3端子型MTJの開発を行う.昨年度までは,SOT磁化反転の評価をMTJのトンネル磁気抵抗を用いて行っていたが,今度は新たにプレーナーホール効果や異常ホール効果、さらにはスピンホール磁気抵抗効果を用いることを検討する.これらの評価法では,Co基ホイスラー合金/非磁性層ヘテロ構造をホール素子に加工するだけで評価が可能なので,材料探索を効率よく行うことができる.SOT磁化反転を利用した3端子型MTJの開発では,高い磁気抵抗比と低い書き込み電流の両立を目指す.高いMR比に関しては,MTJを構成するCo基ホイスラー合金の構造欠陥を低減することを試みる.Co基ホイスラー合金のハーフメタル性はその結晶構造や構造欠陥に強く依存し,特に,Co原子が他の原子サイトを置換する構造欠陥によりハーフメタル性が消失することがバンド計算により指摘されている.これに対し,我々は,Co2MnSiやCo2(Mn,Fe)Si のMn組成を化学量論的組成よりも過剰にすることでこの構造欠陥を防げることを見出し,その結果,最大2610%もの巨大なMR比を実証している.本研究でもMn組成を最適化したCo2MnSiやCo2(Mn,Fe)Siを用いて,高いMR比と低い閾値電流を両立するMTJの開発をめざす. また,SOT磁化反転を用いたMTJを,磁気抵抗素子としてだけではなく,自励発振素子として活用することを検討する.初年度はSOTにより自由層の磁化が歳差運動を持続する条件をシミュレーションで明らかにしているが,今後は試作した素子において自励発振素子の基本特性を明らかにする.
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Research Products
(25 results)