2017 Fiscal Year Annual Research Report
広帯域中赤外光源を用いた生体に影響を及ぼす多種化学物質の高感度計測技術の研究
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17H03278
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
遊部 雅生 東海大学, 工学部, 教授 (60522000)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
立崎 武弘 東海大学, 工学部, 講師 (20632590)
加藤 明 東海大学, 医学部, 准教授 (70546746)
鄭 和翊 東海大学, 理学部, 准教授 (70399335)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 波長変換 / 広帯域 / ガス / 吸収分光 / 中赤外 / 生体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では独自の直接接合技術による導波路構造と分極反転のサンプリングによるアポダイズ構造を持つPPLNを用いた広帯域中赤外光技術をデュアルコム分光法へ応用し、中赤外波長域の強い吸収を活かした、各種ガス分子の広帯域な指紋スペクトルの一括計測を目指して研究を進めている。平成29年度は波長1.55um帯のファイバレーザの出力を差周波発生により3um帯へと変換可能なPPLN導波路に安定的に入射するため、光ファイバを介してレーザ光を入力可能な波長変換モジュールを試作した。試作したモジュールの波長変換帯域は1.55um帯において約15nmであり、1.55um帯モード同期ファイバレーザから出力される広帯域光を一括して波長変換することが可能である。これにより3um帯において約50nmの広帯域光を一括して発生することが可能になった。また今年度はデュアルコム分光のためのモード同期ファイバレーザの周波数安定化についても取組、レーザの温度調整法等を見直すことにより、長時間に渡って安定的な繰り返し周波数の同期を実現することに成功した。 また本研究では中赤外レーザによる化学物質のリアルタイム計測の有用性を検証するため、単一波長光源を用いた基礎検討を行った。具体的には実験動物としてマウスを配置したデシケータへ、ホルムアルデヒドガスを導入し、排気の一部をマルチパスセルへとサンプリングし、半導体レーザの波長変換を用いて発生した3um帯光源を用いて、ホルムアルデヒドガスの濃度をリアルタイム計測した。測定途中でデシケータから取り出したマウスの動体刺激に対する眼球運動を赤外線カメラにより評価した。この結果、長期間のホルムアルデヒドへの暴露により、視運動性 眼球反応 (OKR)が時間の増加とともに減少することが確認でき、暴露条件のモニタリングに中赤外レーザを用いたセンシングの有効性を確認できた
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
広帯域PPLN導波路を用いた波長変換技術については当初計画どおりにファイバ入力型のモジュール化に成功し、安定的な広帯域波長変換動作を実現した。また、デュアルコム分光法の測定系の整備については、1.55um帯モード同期ファイバレーザの繰り返し周波数の安定度をレーザの筐体の見直しや恒温槽を導入することにより、室温変動によるファイバ長の変動による繰り返し周波数揺らぎが従来に比べて格段に向上することに成功し、PLL回路による周波数同期も特別な調整を行うことなく、長時間に渡って安定動作させることに成功した。一方、ファイバレーザの絶対周波数の安定化に関しては、安定化回路の帯域が十分ではなく、現状では絶対周波数の安定性が不十分である。しかし、上記の繰り返し周波数の安定度の向上により、基準レーザとのビート信号の安定度も格段に向上してきている。また1.06um帯のモード同期ファイバレーザについてもその動作を実現している。 単一波長中赤外レーザを用いた化学物質のリアルタイム計測の有用性の検証に関しては当初計画どおり順調に研究が進展している。シックハウス症候群の原因化学物質の1つであるホルムアルデヒドの空気中濃度とマウス・ラットの生体反応の相関関係の検証を行った。実験動物としてマウス・ラットを配置したデジケータへ濃度を変化させたホルムアルデヒドガスを導入し、その排気中のガス濃度を波長変換技術による3um帯光源を用いたガスセンサにより、リアルタイムにモニタリングし、マウスの眼球運動計測と比較することで、ガス濃度と動物への影響の因果関係を定量的に検証することを試みた。その結果、1週間の数ppm程度の濃度への暴露によって、視運動性 眼球反応 (OKR)が時間の増加とともに減少することが確認でき、レーザによる環境計測の有効性を確認することに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)広帯域中赤外デュアルコム分光によるガス吸収スペクトルの高速一括測定の実現 本研究で作製したファイバ入力型波長変換モジュールを用いて、1.55um帯、1.06um帯ファイバレーザの3um帯への波長変換を行い、広帯域中赤外光の発生を実現するとともに、変換帯域等の比較を行い、両方式の得失を明確化する。さらにデュアルコム分光法による広帯域スペクトル測定技術を確立するために、ファイバレーザの周波数安定度の向上を図る。その上でフーリエ変換における波形歪を抑制するために、発生する中赤外光源の帯域等を考慮して、分光のための各種パラメータの最適化を行う。 (2)ディジタル信号処理を利用した波長変換素子の透過率変動による信号歪の抑制 本研究で使用する導波路型の波長変換素子は高い変換効率が得られる反面、端面の反射を無反射コートによって完全に除去することが困難である。この端面の反射は干渉によるファブリペロー共振をもたらし、透過率の波長依存性に周期的な変動を生じてしまう。透過率の周期的変動は、低濃度ガスの吸収スペクトルの計測の際に大きな障害となる。今後は波長変換素子から発生した広帯域光のスペクトルをデュアルコム分光法により計測し、同測定法において端面反射による影響の実験的に検証する。その上でディジタル信号処理により、透過率の周期的な変動を補正可能かどうかの検討を行う。 (3)高分子量ガスの高感度検出と医療応用へ向けた有効性の検証 各種のガスの吸収スペクトルを広い波長範囲に渡って計測する応用の一環として比較的分子量の大きなガス分子の吸収スペクトルの計測を検討する。分子量の大きなガスの吸収スペクトルについては、文献によるデータ等が充分ではないため、本研究で作製した広帯域波長変換素子を用いて中赤外波長域における吸収スペクトルを計測し、広帯域吸収分光のための基礎データの取得を行う。
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Research Products
(6 results)