2018 Fiscal Year Annual Research Report
熊本地震により阿蘇カルデラで発生したグラーベンの被災メカニズムの研究
| Project/Area Number |
17H03306
|
|---|
| Research Institution | Tokyo Denki University |
|---|
Principal Investigator |
安田 進 東京電機大学, その他部局, 教授 (90192385)
|
|---|
| Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大保 直人 公益財団法人地震予知総合研究振興会, 地震防災調査研究部, 副首席主任研究員 (50107398)
島田 政信 東京電機大学, 理工学部, 教授 (90358721)
原口 強 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (70372852)
永瀬 英生 九州工業大学, 大学院工学研究院, 教授 (80180488)
村上 哲 福岡大学, 工学部, 教授 (10261744)
石川 敬祐 東京電機大学, 理工学部, 准教授 (00615057)
先名 重樹 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 社会防災システム研究部門, 主幹研究員 (90500447)
北田 奈緒子 一般財団法人地域地盤環境研究所, その他部局等, その他 (30450901)
|
|---|
| Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
| Keywords | 地震 / 陥没 / 地盤変状 / カルデラ / 現地調査 |
|---|
| Outline of Annual Research Achievements |
2016年熊本地震により阿蘇のカルデラ内では地盤が帯状に陥没するグラーベン(帯状の陥没)現象が発生し、家屋、ライフラインなどが甚大な被害を受けた。このメカニズムを知り復旧・対策方法を明らかにするため平成29年度から3年間の計画で研究を始めた。
まず、現在踏査や住民からのヒアリングなどを行って被災状況の把握を行った結果、広い範囲で大規模に陥没が発生していること、その範囲はカルデラ内に約9000年前の頃に形成されていた湖の範囲にかなり一致することが分かった。次に干渉SAR画像から地震による広域な地盤変動量を求めた結果、陥没被害が甚大だった狩尾などの地区では、最大2～3mもの局所的な変位が発生したことが明らかになった。この地区で表面波探査を行った結果、表層のS波速度は遅かったので、水平方向の引張り力で帯状の陥没が発生したのではないかと考えられた。
次に、代表的な箇所として狩尾地区を選び、詳細な地層構成を調べるために最大約50mの深さまでボーリングを行った。その結果、G.L.-17m～-50mの深さに湖成層と推定される軟弱粘性土層が堆積していることが判明した。そこで、この層や表層を対象に試料採取を行い、繰返しねじりせん断試験などで土の動的性質を調べた。その結果、湖成層は粘性土といえども、砂の液状化と同様に地震によってせん断剛性が急激に減少することが分かった。そこで、湖成層の底面の分布などを調べるために、微動アレイ観測を多くの地点で行い、さらに、代表的な測線で反射法探査を行ったところ、湖成層底面はお椀状に傾いていることが分かった。これらをもとに狩尾地区の断面を推定し地震応答解析と残留変形解析を行ったところ、湖成層が地震動によって急速に軟化してお椀の内側に向かってせん断変形し、その縁の付近で引張り力が働いて陥没が発生したことが明らかになってきた。
|
| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究で扱っている地震時のグラーベン現象による家屋などの被害は、近年国内で発生したことがない。したがって、研究開始前にはグラーベンが発生したメカニズムについて、正断層かカルデラに起因した陥没の可能性があるといった程度の考えしかない状況であった。そこで、被災状況の聞き込みといった現地での情報収集から始めて、衛星画像から広範囲に変位量を測定するといった新しい試み、陥没区間の表層の地盤状況を調査するための表面波探査、、ボーリング、採取した試料に対する繰返しねじりせん断試験、かつて存在した湖に堆積した軟弱な粘性土層の分布把握のための微動アレイ観測や反射法探査、とあらゆる手段を試みて多面的に調査を進めてきた。その甲斐があって、地盤の変状状況や地層構成などが明らかになってきた。また、詳細な解析によりグラーベンのメカニズムを説明できるまで至ってきた。
本研究ではこのようなグラーベン発生のメカニズムの解明と同時に、陥没や地割れによって被災した住宅を早く復旧するための方法を検討することも目的としている。ところがメカニズムがある程度分からないと適切な復旧方法も判断できない。そのため、阿蘇市や住民の方々と協力して研究を進めてきた。そして研究の途中段階で住民の方々に研究成果を還元することが大切と考え、これまで3回ほど住民の方への説明会を開催し、被害のメカニズムから復旧方法まで説明してきた。この説明会の様子はマスコミでも取り上げられ、新聞やテレビで紹介された。
以上のように、本研究は当初の計画以上に進展していると考えられる。
|
| Strategy for Future Research Activity |
初年度の平成29年度には被災状況の把握、地盤変状量の把握、地域全体の地層構成の概略把握、陥没区間の地盤状況の把握、深い地層構成の調査、地震動の分析、代表的な地区に対する詳細な地盤調査および試料採取を計画通り行ってきた。2年目の平成30年度にはさらに地層構造を調べるため地震波探査を行い、不撹乱試料に対し室内試験を行って、これらをもとに代表的な断面で解析を行った。これに引き続き最終年度の平成31年度（令和1年度）は、まず、採取した不攪乱試料に対する室内試験を引き続き行う。そして、代表的な数本の測線に対し2次元地質断面を推定し、将来予想されている南海トラフの地震動に対し2次元地震応答解析、および残留変形解析を行って地盤変状発生の可能性の予測を行う。また、振動台を用いてグラーベンを再現する模型実験を行い、メカニズムの確定を行う。そして、グラーベンに対する戸建て住宅や埋設管の対策方法を考案する。一方、国内各地において類似の被害が発生する可能性がある地区を抽出する。
最後に、これまでの成果を取りまとめて国内外で学会発表を行う。
|
