2017 Fiscal Year Annual Research Report
Dynamics of Housing and Urban Structure in Industrial Cities in SETOUCHI Region
Project/Area Number |
17H03363
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
菊地 成朋 九州大学, 人間環境学研究院, 教授 (60195203)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
牛島 朗 山口大学, 大学院創成科学研究科, 助教 (40625943)
黒瀬 武史 九州大学, 人間環境学研究院, 准教授 (50598597)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 建築 / 都市計画 / ハウジング / 近代史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,近代後期になって近世的地域社会から急激な発展を遂げた瀬戸内海沿岸部の工業都市を対象に,産業を軸としたハウジングの展開と都市形成を動的に捉え,日本の近代化の特質を解明することを目的とする。 平成29年度は,瀬戸内海沿岸部のうち,市域の拡大や市制施行など,戦時体制下において行政区域の再編が積極的に進められた山口県を対象とした。 まず, 1945年時に市制をとっていた全10市を取り上げ,市制施行に至る人口推移および市域の面積変化を把握した。その結果,山口県内でも特に瀬戸内海沿岸部において工業都市化が顕著であることが明らかになった。また,同時期の主要鉱工業施設の分布を見ても,瀬戸内海沿岸部にその立地が集中しており,それが当時の市域とほぼ対応していた。なかでも,軍需関連工場の立地は,徳山市,光市,和木町,宇部市にそれぞれ生産拠点が設けられたことがわかった。さらに,戦前の山口県における都市計画制度適用状況について確認すると,用途地域指定までを含む面的な計画が実施された地域は下関市,宇部市,そして県内唯一の新興工業都市計画事業実施地域である光市のみであった。 次に,戦前の軍需生産拠点整備を契機として都市化した光市を取り上げ,現地調査及び資料収集を実施した。光市においては,海軍工廠の設置決定から1940年の開庁へと至る期間に,「周南都市計画 地域決定」,「室積都市計画土地区画整理事業」の認可,「室積都市計画 地域決定」等が段階的に行われた。さらに,これら都市計画事業と並行して,県労務者住宅,住宅営団福岡・広島両支所,官営(後の市営)など,異なる公的主体による住宅供給が行われたことがわかった。このような戦前の都市計画事業は,街路計画や用途地域の大半において戦後の都市計画においても継承されている。また現地調査で確認したところ,戦前戦中に供給された計画住宅地の多くが残存する状況にある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究実施計画では,1)瀬戸内海沿岸部の人口動態や企業立地等に関する社会・産業関連データベースの構築,2)近代都市計画制度導入前後の空間復元・空間改変モデルの作成,3)具体的な工業都市を対象としたケーススタディ,を予定した。 1)については,山口県を対象としてデータ収集と分析を行なった。山口県内において終戦時までに市制を施行した10都市を取り上げ,統計資料にもとづき人口推移及び市域面積変化を整理した。それによって,山口県の当該期における都市化の動向をマクロに捉えることができた。さらに,広島県(5都市),岡山県(4都市),香川県(3都市),愛媛県(6都市)についても同様の方法で情報収集を行なっている。 2)及び3)については,山口県内の10都市を対象とした検討から,最初のケーススダディは,工業都市としての属性が明快な光市を対象とすることにした。そして,海軍工廠設置に伴う都市施設整備を目的に国策として戦時下に実施された新興工業都市計画の内容を確認し,その実現状況から現在の都市形態への影響を把握することができた。さらに,この事例検討を踏まえて,他都市でも展開可能な空間モデルの作成に着手している。 以上のように,初年度にはほぼ予定通りの活動を行うことができ,期待した成果が十分に得られ,今後の方針も具体的に定まった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画で予定していた,1)瀬戸内海沿岸部の工業都市に関するデータベース構築,2)当該地域の工業都市形成過程のマクロな視点からの把握,3)具体的な都市を対象としたケーススタディ,4)それらの比較を通して動的な空間モデル化の手法の構築,を次年度以降も進める。 マクロな視点からの分析とデータベース構築については,メンバーが作業を県ごとに分担し,その分析結果を持ち寄って比較検討を行い,総合的な類型化を試みる。 ケーススタディで取り上げる都市については,類型化の成果をもとに,各類型の中から典型として選定した複数の都市とする。平成29年度に現地調査を行なった光市に加え,平成30年度には宇部市を対象とした詳細調査を行う予定である。各都市の現地調査では,資料調査,実測調査,図面作成,空間改変状況の検証,聞き取り調査等を実施し,①近代化産業遺産・遺構の残存状況の把握,②近世村落の空間構成と改変状況の把握,③炭鉱住宅や企業社宅,兵舎等の計画概念と供給実態の把握,④都市化過程でスプロールし形成された居住空間特性と改変状況の把握,⑤工業都市居住に関する様々な属性の居住者からのオーラルヒストリーの収集を行う。
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